番外編 兄を手にかけた弟・⑤

 気付いたら100年以上が過ぎていた。


 その頃にはみんな、諦めきっていた。

もうどうしようも無い。

ニンゲンが命乞いして泣き叫ぶのも、そう言うニンゲンを殺したり、家を壊したりしなきゃならねえのも、世界樹様が弱っていくのが目に見えて分かるのも、そう言う俺様達を見て邪神が嗤っているのも、何もかも……もうどうしようもねえんだ……ってな。


 そんな時だ、ヴィクトルと出会ったのは。

変なニンゲンだと思った。

ニンゲンは俺様達を恨んでいるから信用できねえと思った。

だけど俺様はそのニンゲン相手にさえ、思わず『助けてくれ』って懇願するほどに追い詰められていたんだ。


 …………。

 すげえんだな、生活魔法。

 マジで邪神を封じ込めた。


 監禁されていた巫女の姉貴が戻ってきて、世界樹様が息を吹き返されて、俺様達の心に希望が灯った。

すぐには実感が湧かなかったが、『ああ、もう大丈夫だ』ってのがじわじわと分かるんだ。

ヴィクトルが、『今までニンゲンを襲ってきた分を賠償しろ』っつっても頷くつもりだった。

だけどアイツ、何も求めなかったんだ。

『もう襲撃がないだけでこっちは充分に助かるから』

バカだよ、アイツ。

ああ、頭も良いし度胸もある、なのに肝心な所でバカだ。

だけどよ、そう言うバカを俺様はよく知っていたんだ。

兄貴が……正にそうだったからさ。


 そう言うバカは絶対に離しちゃならねえんだ。

 もう、二度と。

 一度手放したら、どうなるか。

 俺様は知ってしまっている。


 ああ、窓ってのを何度か蹴破っちまったのは謝るぜ。

俺様達は羽根や翼の有る無しに関係なく、全員が普通に空を飛べるからよ、ニンゲンの家で窓って呼ぶ所からも普通に出入りするんだ。

魔族の家もそう言う作りになっているから、癖なんだ。悪いな。


 ヴィクトルが大統領になって、魔族とも正式に貿易の協定を結んだ。

聖なる緑の園にはニンゲンは基本的に入れないから、定期的にアズーランを代表にした使節団を派遣している。

やる時はやり遂げる男だぜ、ヴィクトルは。

自信がねえのが時々ムカつくけどよ、誰よりも信頼できる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る