番外編 妻の誕生日を忘れる夫
ええ、ありがとうね。
グレイグったら、私の誕生日を毎年のように忘れてしまうのよね……。
間違いなく来年も忘れているわ。あの人は私の誕生日を必ず忘れてしまって、娘達の誕生日にはお人形やらおもちゃを買ってくるのに、いつだって私の時には何もないのよ。
そりゃ不満よ。私だって誕生日は祝ってほしいもの。何度も喧嘩したし叱ったわ、それでもダメだった。これからも諦めずに喧嘩はするけれど。
マオン君が指摘してくれるまで、今年も忘れていたでしょう?隠さなくて良いのよ、あの人は私の誕生日を間違いなく覚えていないから。覚えるようになったらかえって不安だわ。
え?それは無いわ。
私は一応は怒るけれども離婚とかは考えていないのよ。
これからもずっとグレイグといる。
ううん、娘達がいるからじゃないの。もう私1人でも育てていけるし、生活の不安もない。
私はグレイグを愛しているし、その愛情がグレイグと一緒でいることで削られたりもしていないの。
私達が王都にいた時、騙されて売られて娼館で働かされていたって知っているわよね?良いの良いの、気にしていないから。子供3人がいると忙しすぎてね、過去の傷にいちいち苦しんでいる暇が無いのよ。その子供だってもう望めないだろうと覚悟していたのに、あっという間に双子が来てくれて、その後でも産まれてくれて。
閣下くらいじゃないかしら、私達の過去を今でも気にされているのは。もう閣下は充分なくらいに助けてくださったのにね。本当にお優しい方だから仕方ないのでしょうけれど……。
……例えばの話になってしまうけれど。
取って付けたように記念日の時だけ愛想良く振る舞って、普段の生活を蔑ろにする夫……って、マオン君はどう思うかしら。
惚気だけれども……グレイグは私の誕生日こそ忘れているけれど、普段の生活で私と娘達を蔑ろにしたことは一度だって無いのよ。
雨季に入る前に何も言わなくても家の状態を確かめてくれるし、水たまりが凍るような朝には真っ先に起きて暖炉に火を付けてお湯を沸かしているわ。仕事は大変で忙しいのに、私や娘が体調を崩せば黙って休んで看病してくれて。
食事だって毎日のように作ってくれるし、私の帰りが遅くなっても起きて待っている。美味しいものを手に入れたら真っ先に私達に食べさせてくれる。お酒は好きだけれど、それで私達に迷惑をかけたことなんて一度もない。
ありがとうとか愛しているとか毎日のように言われるし、実際、他の女に目移りもせず。私は出産してから太ったけれどね、今の方が可愛くて綺麗だと抱きしめてくれるわ。私や娘達が買い物に行く時はお小遣いをくれて、楽しんでおいでって送り出した後で、本人だけは体を張って仕事をやっているの。
それでいて、今まで一度も恩着せがましかったことも、苦労しているって顔もしたこともないのよ。
きっとあの人にとっては、私の誕生日よりも私達と過ごす毎日の方が大切なの。
それって……とてもかけがえの無いことだと思わないかしら?
分かっているわ、これ以上の惚気は有料で聞く、でしょう?
それじゃ、来年も、私の誕生日をグレイグに教えてあげてね。
ええ、いつものように先払いするわ。
「こちらが領収書です」
「ありがとう。よろしく頼むわね」
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