第7話 地味豚公爵は大活躍していた・②

 俺も驚いたよ。

まさか魔族が人間以外の何かに苦しめられて、襲撃させられていたなんて。

単なる嘘だという可能性もあるが、それにしたって今までの行動がおかしい。

……その後はみんなに手伝って貰って文献をあさった。オールー公爵家で埃を被っていた古文書まで紐解いた。

魔族は人間より圧倒的に強い。

身体能力も桁違いだが、凄まじい【破壊魔法】や絶大な【回復魔法】を自由に操る。

魔族一人に対してグレイグ達、騎士団総動員でやっと太刀打ち出来るくらいなのだ。

その魔族が人間でも魔物でもなく、100年以上苦しめられている相手……となると、逆に限られてくる。

――神、だろう。

それもきっとこの世界を生み出した女神じゃなくて、ろくでもない神。

幸い、古文書の中にもそれらしい記述があった。

『この世界を作りたまひし末の女神に邪なる思いを抱く男神1柱あり。男神は女神の愛したもうたこの世界を並々ならぬ憎みを以て扱う』


 『先に次の襲撃場所を決めましょう。この地図の場所で良ければはい、不都合があればいいえを』

『はい』

『あなた方を苦しめている相手は邪神ですか』

『はい』

『人質を取られていますか』

『はい』

『どなたか使者になれませんか。次の襲撃場所で私達に捕まって下さい。建物に火を付けようと松明を持っている方を最優先で取り押さえます』

『はい』

『襲撃する時刻を教えて下さい。朝ならはい、午後ならいいえ、夜ならば窓を破って外に出て下さい』


 ……窓が破られていた通り、俺が指定した襲撃場所を夜に魔族が襲撃してきた。

その中で一人だけ松明を振り回している。

俺はグレイグ達に頼んで大乱闘の挙げ句にソイツを生け捕りにして貰った。

俺だって、まさかその魔族が魔王のドミニクだったなんて思わなかったけど。

「助けてくれ」

牢屋に連れ込んで、早速話を聞いたら……出てくる出てくる、邪神の悪逆非道。

反抗した魔族の子供をその目の前で殺す、女性だったら……ちょっと俺の口からは言えないような目に遭わせてから殺す。

なのに、相手は邪神だから殺しても死なないのだそうだ。

先代の魔王達が命がけで殺したのに、すぐさま復活したらしい。

その時に大嗤いして、神を殺せるのは神だけだ!とか言ったらしい。

「殺せないんだったら幽閉できませんかね」

「封印……?」

「俺は【生活魔法】しか使えないんですけれど……その中に【収納】と【施錠】ってのがありましてね」

【収納】とは、異空間を作ってモノを仕舞ったり、取り出したりできる魔法。

【施錠】とは、魔力で封印鍵を作り出して、施錠と解錠を操る魔法。

この二つを組み合わせれば、邪神を異空間に幽閉してその異空間そのものに鍵をかけることも出来そうだ。

ただし……。

「俺じゃ全く魔力が足りない。相手は魔王達を相手にできる邪神だ、俺だけの魔力じゃ簡単に突破されてしまうでしょう」

しかも基本的に魔法を使える(※魔力を持っている)のはこの王国じゃ貴族か王族だけ。たまに平民でも出てくるけれど、そんなのは極々わずかだ。

今、オールー公爵領にいる貴族でそれに快く協力してくれるのは……俺だけ。

「ですから、魔族全員の魔力を貸して下さい」

「ヴィクトル様!危険です!」

「まだ此奴らが信用に足ると決まったわけではありません!」

グレイグやクードが顔を青くして止めてくるが、ここで止まったら俺達はずっと変われない。

これからも魔族は嫌々ながら人間を襲い続けるし、俺達は魔族を恐れながら襲われ続けるだけだ。

「ニンゲン」ドミニクが目を丸くして俺を見ている。「どうしてそこまで……」

「俺はね、このオールー公爵領の領主なんです。支配者としてじゃなくて、統治者としてここに暮らす人間全員の生活を保証する義務がある。あちこちから『地味豚公爵』なんて言われていますけれどね!」

ドミニクはしばらく下を向いて黙っていたが、ややあって顔を上げる。

角が生えて羽根も生えているけれど、確かに俺達と同じ覚悟を決めた人間の目をしていた。

「……いいか、俺様はこれから脱獄する。そうだな、たまたまそこにいたニンゲンを人質として連れて行く。

俺様達、魔族が世界樹を取り戻そうと反乱を起こせば、邪神はすぐに姿を現す。行くぞ」

それで俺はえっちらおっちらと拉致されて、魔族の居住する『聖なる緑の園』に連れて行かれたのだった。

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