大好きな異世界RPGの至高神に転生したけど、ストーリーが狂ってしまったので修正する。
出島しま
第1話 至高神と三人の配下
「——ッ!」
目を覚ますと、黄金の空が僕の視界を埋め尽くした。
「こ、ここは……?」
「空中神殿オルニオンでございます、ユーベル様」
声のした方へ振り向くと、そこには三人の人間が、僕の数段下で跪いていた。
三人とも、金色の装飾が施されている黒い衣服の上に、白い大きなコートを着ていて、神聖な感じが溢れ出ていた。
辺りを見渡すと、ここは雲の上にある神殿ということがわかった。
なるほど、だんだん思い出してきたぞ。
朝、いつも通り学校に行こうとして、通学路を歩いていたんだ。
そうしたら急に横から車が飛び出してきて——
「あぁ、僕、死んだのか」
少し変な気分だ。確かに死んだ覚えがあるのに、今こうして生きている。生きてる感覚があるってことは、これはラノベや漫画でよくある、転生というやつなのかな?
思ったよりすんなり受け入れられた。普段から転生モノの作品を読んでいたおかげか。
ここはどんな世界なんだろう。なんとなく見覚えがあるような……。
「どうかなさいましたか? ユーベル様」
ん? ユーベル? そしてさっき言っていた空中神殿オルニオン……もしかして……。
「……アデラ」
「はっ」
「エミリエンヌ」
「ここに」
「プリシラ」
「はいはーい!」
三人の名前を僕は知っていた。
——間違いない。ここは、僕が前世でこよなく愛したRPG、『ヴィクトワール』の世界だ。
2018年に発売され、1,000万本以上売り上げた名作RPG『ヴィクトワール』。
王道かつ重厚なストーリーが魅力で、キャラクターの成長や、人との出会いや別れなどを追体験し、感動を得ることができるのが特徴だ。
あの『ヴィクトワール』の世界に転生出来るなんて……
僕は驚きと感動で、意識があの世まで飛んでいきそうになった。
一度深呼吸して、何周も読み込んだ『ヴィクトワール』の設定資料集を思い出す。
至高神ユーベル。この世界唯一の神で、ゲームでは行き詰まった主人公たちの手助けをしてくれる存在だ。
褐色の肌に白髪で、服装は配下たちのものと似ているが、一回り大きく、より多くの装飾が施されている。
一度だけ主人公と敵対するイベントがあるが、ステータスが全てカンストしているため、基本的に負けイベントである。
凄いチートキャラに転生してしまった……。ただ、至高神がゲーム内で使っていた魔法とかが僕にも使えるかわからないから、後で試してみよう。
そして、僕の前に跪いている、三人の配下。
クールビューティー、しかしポンコツ。ロングの黒髪が美しいアデラ。長い槍を用いてリーチを活かした戦い方をする。
いやそれにしても胸デッッッッッッカ! デッカいなこの子……スイカゲームできちゃうじゃん……。
「ユ、ユーベル様、どうかなさいましたか?」
頬を赤らめたアデラが言う。
「そんなにじっと…」
まずい。見ていたのがバレちゃったか!?
「肋軟骨のあたりを見て」
どこだよ。たとえ見ていたとしても骨で興奮しないよ。
やっぱり設定資料集にもあるとおり、アデラはちょっとポンコツだな。そこが魅力でもあるんだけど。
「アデラあんたねぇ……至高神ユーベル様が人間の体ごときに興奮するわけないでしょう?」
青色の髪をポニーテールにしている弓使い、エミリエンヌが言った。
ごめんエミリエンヌ。中身はただの思春期男子高校生だから、わりとなんにでも興奮しちゃうんだ——
「きっとシャイニングドラゴンなどの上位種でしか発情しないわ!」
それはない。
「はいはーい! 僕わかったかも!」
大きな声で答えたのは、肩まで伸びたベージュ色の髪の毛を揺らしているボクっ娘、プリシラ。
というかいつまでこの話続くんだ……ドラゴン以上の癖が出てくるとは思えないけど……。
「至高神は完璧な存在だから、完璧な存在である“自分”をおかずに使うんじゃないかな!?」
新たな性癖、”自オナ”が誕生した。
話の内容はアレだったが、三人とも僕のことを慕ってくれているのはわかった。
失望させたくはないので、しばらくは至高神らしく振る舞おう。
「確認したいことがある」
「はっ。なんなりと」
ここが『ヴィクトワール』の世界だったら、僕のやりたいことはひとつだ。
「……魔王は、まだ生きているか?」
「……はい。現在も、べナム大陸を中心に、勢力を拡大し続けております。」
「そうか……。」
そう、僕のやりたいことは、魔王の討伐——。
ではなく!
魔王を討伐しようとする主人公たちのストーリーを生で見ること!!
あの感動ストーリーを生で見られるなんて最高すぎる! 転生万歳!!
僕が魔王を倒したら物語が終わっちゃうからね! 見守るだけ!!
ゲームであれだけ泣けるんだから、実際に見たらどうなっちゃうんだろう……。
期待に胸を膨らませつつ、もうひとつの質問を投げかける。
「トリリア村出身の、キールという少年は、今どこにいる?」
キールは、『ヴィクトワール』の主人公だ。少しガラが悪いが、正義感が強く、魔族に親を殺された過去を持っている。
「少々お待ちください」
アデラの右手に小さな魔法陣が浮き上がる
《——無属性魔法/サーチLv.90》
「現在、トリリア村の西側ある大都市、エストリアに滞在しています。」
え!? 何今の!? あ、魔法か! あんな感じなんだ! やっぱカッコいい!! あとで絶対僕もやる!!
「エストリア、か……。感謝する、アデラ」
「勿体なきお言葉」
初めて見る魔法に気持ちが高ぶったけれど、彼女らの前でボロを出すわけにはいかないので、冷静に答える。
エストリアにいるってことは、まだ物語は二章だな。よし! たくさん楽しめるぞ!!
「ひとつ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
ん? なんだろう。
「許可する、エミリエンヌ」
「なぜ、キールという少年の居場所を?」
そっか。二章ってことは至高神とまだ対面していないんだ。うーん、どう説明しよっかな……この世界の主人公って言ってもわからないだろうし……。
「……魔王を……討つ者だ」
「「「——!!」」」
神殿が、息を呑んだように静まり返った。
「まさか……」
「もうそこまで未来視を……!?」
「“ユーベルの大予言”……」
「え?」
なんか大袈裟な表現されてるな……。未来視とか使い方わかんないんだけど……。
とにかく、キールたちを見るためにはまず、
「私は一度、地上に降り立つ」
地上に降りなきゃね。
「!? ユーベル様自ら!?」
「ユーベル様が直接出向かなくとも、我々だけで……」
何!? ストーリーの生鑑賞を僕だけ省いてしようってか!? そうはさせないぞ!!
「これは私が行わなければならない、世界の行末を左右する、重大なものだ」
「そ、そんなに……!?」
「我々では手に負えないと……!?」
「そうだ。例えるなら——」
彼女らを納得させるのに十分な例えを——
「カン○リーマアムがさらに小さくなるような」
僕の例え話ストレージにはカスしか入っていなかったようだ。
こんなの異世界人に伝わるわけがな
「なんですって……!?」
「あれ以上小さくなったら……」
「カントリーじゃなくてヴィレッジだね……」
なんでわかるんだよ。
「おのれ小林○薬……!」
まったく関係ないよその会社。
あ、そういえば設定資料集に、三人の配下は至高神の分身から作られたって書いてあったから、そのせいかな。
だから僕の知識が変に入っちゃってるのか……? 三人には申し訳ないことをした。
「……わかりました。ですが、遠隔魔法による支援のお許しをいただきたい。我々も、貴方と共に歩みたいのです……!」
アデラが、少し瞳を濡らして僕を見た。
確かに、特等席を独り占めするのは良くないな。みんな見たい気持ちは同じだ。
「いいだろう、許可する」
「! 感謝いたします……!!」
「じゃあ、魔法陣の調整は僕がするね!」
そう言って、プリシラは両手に魔法陣を浮かび上がらせた。
輝く魔法陣は、異世界に来たことを改めて実感させてくれる。
それも、大好きな『ヴィクトワール』の世界に。
「よしできた! 名前を呼んでくれたら魔法陣を通して会話ができるし、《——無属性魔法/サモンLv120》を使えば、僕たちをいつでも召喚できるよ!」
「ふむ……悪くない出来だな。感謝する、プリシラ」
「えへへ」
地上に降りても彼女たちと会話が出来るのか! それは素直に嬉しい。ぼっち回避。魔法って凄いなぁ……。
「——では、向かうとする」
白いコートを翻し、彼女たちに背を向ける。
「ご武運を」
何も言わず頷く。
期待と興奮でもう言葉が出ない。
魔法、剣、モンスター、レベル、そして主人公たち。
こんなにもワクワクしたのはいつぶりだろうか。
心臓が早鐘を打つ。
黄金の空の下には、まだ見ぬ世界が広がっている。
これから出会うであろう様々なストーリーに心を躍らせながら、
僕は今日、『ヴィクトワール』の世界に降り立った。
大好きな異世界RPGの至高神に転生したけど、ストーリーが狂ってしまったので修正する。 出島しま @Dejikasu
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