高縄屋敷博物苑「委細之記部(いさいの しるしべ)」
邪部そとみち
プロローグ/はじめに しるすこと
はじめにしるすこと
それまでヒトの世は昏かった。
物知らずに情け知らず、迷信かぶれ、知ったかぶり。無知蒙昧のそんな連中で世の中は溢れていて神も仏もあったものではなかった。
――いや、一応は神々や仏、精霊と呼ばれる方々はおわしまして、だがしかし、ヒトの世とは大した関わりも無くあっちはあっち、こっちはこっちと神仏もヒトも銘々がてんでばらばらに、それぞれ好きな様にその日その日を暮らしていた。
しかし或る時、ヒトの中の変わり者と神々の中の変わり者が出会い、何やかや交流があって、ヒトの変わり者は神仏や精霊達がこの世に関する様々な知識や技術を持っている事に気が付いた。
神仏の使う神通力の様な不思議な奇跡の力はヒトの身に望むべくもないが、知識や技術はヒトであっても利用する事が出来る。
ヒトの変わり者は神の変わり者を通じて神仏や精霊達に乞い、彼等の知識や技術をヒトの世にもたらす許しを得た。
「頒明解化(ぶんめいかいか)」――神仏や精霊の持っていた知識や技術を、広くヒトの世に開示し頒布した事により、ヒトの世の生活が変化し始めた。
それまでは冠西(カンサイ)の京におわしました帝も、神仏の知識と技術を神降ろしの儀によって円滑に賜る事が出来る様にと、冠東(カントウ)に遷都をお決めになられ、 神降ろしの為の塔を建立して東の京へとお移りになられた。
頒明解化の始まりとなった新たな都トウキョウ――東の京、或いは類を見ない立派な塔の聳える京・塔京との字が当てられる事になった。
だが頒明解化はまだ日も浅く、無知や迷信の暗がりがヒトの世に濃く斑に残っていた。
そんな頒明解化直後の時代の、これはとあるヒトの変わり者の記し残した物語――。
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