投稿①
名もなき村
第1話
覚えているのは、目が眩むほどの閃光と爆発音。どうにか回復してきた僕の視界に入ってきたのは、まったく見知らぬ光景だった。
おかしい。僕はさっきまで・・・さっきまでどこにいた?
冷や汗が噴き出る。なんとか思い出そうとするが、とらえたはずの記憶の輪郭は、崩れて指の隙間からこぼれるように消えていった。
自分のことが何も思い出せない。自分という存在があやふやになり恐怖が込みあがってくるが、今必要なのは現状把握だ。
声や骨格から自分が男であることはわかる。あまり強そうではないことも。
服・・・はなんだか白いローブのような、あ、白衣だ。白衣を着ているようだ。何らかの研究者か医者だったのだろうか。
辺りを見渡すと様々な機械が立ち並ぶ薄暗い空間だった。やはり僕は研究者だったのだろうか。よく見るとどの機械もよく見ると計器やパイプが壊れていたり、何かのケーブルが断線しているようだった。見たこともない機械ばかりで、残念ながら何の研究所かは検討もつかなかった。
などと自分についてあれこれ考えているうちに、遠くから物音がした。非常に小刻みな足音だ。まさかこっちに走ってきているのだろうか?
咄嗟に身を隠すために、そこいらにあった機械の扉を開けて中に入ることにした。安全性について逡巡し若干躊躇したが、それでもほとんど迷うことなく飛び込んだはずだった。
しかし、その足音は僕の想像をはるかに超えるスピードで研究所内に突入してきた。足音が止まり、目が合う。
思わず体が強張り、身動きが取れなくなる。
「おい、まだ生き残りがいたみたいだぞ。撃ちもらしたのバレると報酬ダダ下がりするからなー。早めに片づけよーぜ。」
「無意味でも非影響者か確認しないと。言葉が通じるなら両手を挙げて床に伏せなさい!」
突如現れた二人の影に促されるまま床に伏せる。声からして二人とも少女のようだが、威圧感がすごい。姿も見えぬまま床に伏せた。
「は?」
「え?」
・・・・・・
気まずい沈黙が流れる。何かおかしかっただろうか。刺激するのも怖いので相手の出方をうかがう。
「今こいつ、指示通り伏せなかったか?」
「いや、ただ力尽きてタイミングよく倒れただけかも・・・。」
「おい、そこのお前!言葉がわかるなら返事しろ!5秒以内に返事がなければ撃つ!5・・・,」
「わー!ストップストップ!」
両手を挙げたまま顔を上げる。何もわからないまま死ぬのは御免だ。
両足でしっかり立ち上がってからようやく二人と正面から向き直った。
銃を構えた二人の少女が目を丸くして唖然としていた。まさか立ち上がるとは思ってもいなかったようだ。
二人の少女はそれぞれ美しい白と金の髪を靡かせていた。藍色のかっちりとした制服に、革製のホルスターやウェストポーチが巻き付いている。きっちりと折り目がついたプリーツスカートは膝より少し上をひらひらと舞い、その下を守るかのように厚いストッキングが伸びていた。
手に持った銃はいわゆるハンドガン、というやつだろうか。とはいえ少女の手にはあまりに大きく映る。うっすらと光を放つそれは、銃口の深淵をこちらに覗かせている。
お互い何も発さないまましばらくの時間が流れる。
膠着状態を破ったのは、金の髪を二つに結んだ元気そうな少女だった。瞬間移動でもしたかのような跳躍でとびかかってくる。思わずよろけて後ろに倒れると、少女が馬乗りになって銃口を向けたまま吼えた。
「お前、何者だ!?本当に非影響者なのか!?答えろ!」
あまりの剣幕と今もなおグリグリと押し付けられる銃口に寿命を縮めながら、
「わからない!僕は記憶を失っている!命だけは助けてくれ!」
と今僕にわかる全てを伝えた後、銃を持った手が降ってくる光景を最後に僕の意識は途切れた。
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