EP06「食事の価値とは」

side:ユイノ


ミズホモールの一件から二日後、定例メンテナンスによって追加された食事バフが追加された。RFSで存在した食事バフと同じシステムが採用された。特定の食材から作成された料理を食べることで、経験値増加やレアドロップ確率増加等といったステータス増加の向上を得ることができる。RFSと異なり、同じ料理を食べてもバフレベルが上がることがなく、別の料理を食べる必要がある。運営からお知らせに添付されていた、対象店舗を見ると、ハンバーガーチェーン店から牛丼屋、立ち食い蕎麦や、更には町中の中華屋といった様々な店に対象商品が存在するとこになっている。やはりというか、対象商品を一人一品完食した人に対して、そのバフ効果が追加される"あいことば"が渡されるらしく、その"あいことば"だけをインターネット上で転売、代行するといった行為が予想されたのか、位置情報を利用してその店の周辺で、なおかつ入手から30分以内に使用しないと無効化される使用であると言う事が一緒に明記されていた。


「つまり、実際に食べ歩きをしろってことか」

お知らせを見てミナセに今後の予定を聞こうかと思ったら、同じ事を考えていたらしく、個人チャットには簡潔に纏められていた。



[ミナセ:1600にシンフォニーホールの電停で 市内交通周遊パス持参で]


さっそく道草しながらバフを稼ごうってか。別に構わないけどそれ夕飯どうするんだよ。





   ───1───

   11月18日15:55 月川市交通公社

シンフォニーホール・市民会館前電停


「さてモバイルicカードで周遊パスも買ったけど、ミナセのやつ、この時間から周遊パスを使うほどって、どれだけ回る気だよ」

指定された場所、シンフォニーホールの電停、中央駅方面のホームのベンチでミナセを待つ時間を利用して、ミナセがいくであろう場所を予想してみる。ミナセの事だから、恐らくは攻撃詠唱時間短縮か、あるいは追加効果発動率増加かそこら辺を狙いそうな気がする。

そうなると、御前場の水戸屋さんの親子丼が丁度どちらとも所得ができるし、予算的にも問題はない。その後に、どこかしらの施設で軽く試遊すればこうもわかるし、お腹もすくから夕飯問題も解決するだろう。それか宿場の三日月茶屋の白玉ぜんざいでも問題はない。量的にも予算的にもお手ごろだ。


「ユイノ~!こっち」

反対側ホームからミナセが呼ぶ声が聞こえる。どうやら雪見温泉方向に行くらしい。発車案内表を見ると丁度、快速が先発でまもなくと表示されている。

確かに月川駅まで行って地下鉄に乗り換えるよりは、雪見温泉で出て地下鉄に乗り換えた方が、乗換回数も少ないし、早くつきそうだ。

地形はいつも立体的に見るのに、どうして一方向しか見なかったのであろうか。


構内踏切を渡りミナセと合流すると同時に電車が来る。効率重視のミナセとしては実に考えられた工程だ。ドア横のICリーダーにスマホをタッチして、空いているつり革をつかむ。


「それでこれからどこに行くんだ?」

僕は真っ先にミナセに質問する。


「うーん、まず最初に七軒茶屋の新月堂で白玉団子を頂く。これが17時までだから。それから関場銀座に行って肉の昌平で"ラムコロッケ"を頂く。これが18時に上げなおしで限定50個、先に電話して予約しておいてあるからそんなに急がなくても入手できる。それから~」

頭の中で月川の地図を思い浮かべながらミナセのプランを指でなぞる。七軒茶屋はこまま真っ直ぐ乗っていれば着くから問題ない。だがそこから関場銀座と言ったらま反対の方角。移動だけで1時間弱はかかるはず。

「待って、何件行くつもり?」

頭の中で浮かんだ疑問を率直にぶつける。

「ん?新月堂に肉の昌平、玄莱蕎麦で三軒だけど・・・時間もかかりすぎるし、夕飯も入らないか・・・。肉の昌平で今日はやめて、続きは明日にしよう」

ミナセは指を折りながら件数と予めスクショしておいたお店の情報をにらめっこしている。


そんなことをしている間に、最初の目的、七軒茶屋の電停で降りるのであった。



   ───2───

   11月18日16:27

   月川市西雪見 新月堂


雪見温泉の名にふさわしく、11月だというのに道端には雪がかすかに積り、吐く息が白くなって歩いてきた道に、微かに道標の如く残っていく。

電停から降りて歩くこと五分程、目的地の新月堂の前には、沢山の人が行列をなして待っていた。平日の日暮れ時、しかも閉店間近であるときに態々、七軒ある茶屋の中から、この店だけに行列を作ってまでしてでも食べたいという観光客はそんなに多いはずがない。つまりは、この行列は殆どが白玉団子を目当てに並んでいると言う事になる。公道上に面しいるこの場所では対人戦PVPどころか、野生のモンスターも出現しないからみんな、ARゴーグルを外して、スマホや漫画を読むなどしてい行列を待っていた。

2~30人ほど何でいるからてっきり時間がかかるのかと思ったら、行列は少しずつ住んでいき、10分ぐらいで僕達の注文を伝える番が来た。

お店の入り口で店員さんに注文を伝えて代金を支払う。すると奥のカウンターで注文した商品を受け取るファストフード方式であった。

ミナセはそれを受け取ると、店の壁際のあいていたカウンター席に軽く腰を掛けると、おもむろにスマホを取り出して写真を撮ってから、勢い良く口にして、一言。


「出来立てか!アツッ」

どうやら自分が水属性であっても熱いのは苦手か・・・というか、ミナセ猫舌じゃなかったか?

左手にお茶、右手に串を持って強引に食べようとしたので、行儀が悪いからやめろと、軽く注意した。




結局、猫舌のミナセが出来立ての白玉団子5粒を食べ終えるに10分程待つことになった。

更の底に書いてるひいてあった、お店の名前が書いてあるシートの裏に書いてある"あいことば"を入力して目的の食事バフを手に入れてお店を出たのは閉店時間をとっくに過ぎた17時10分ごろの事であった。



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