鉄腕の子犬 〜創世記外伝1〜

浪漫贋作

プロローグ


 アラートが一向に鳴り止まない。


 視界の隅に映る各種センサーからの通知はどれも赤文字で、読むのも嫌になるような絶望的な文章が画面内に溢れかえっていた。

 モニタに映し出されたメインカメラの映像には爆炎と土煙以外の何も見えず、果たして自分が正しい方向へ進めているかどうかすらも定かではない。

 ただ、先ほどから雨のように降り注いでくるミサイル群が全て自分たちを狙っているということと、足を止めた瞬間、自分がその直撃を受けることになるだろうことだけは分かっていた。

 そんな生きるか死ぬかの瀬戸際の中、男は自らの機動歩兵を駆り突き進む。

 有人式機動歩兵、ギア・ボディ。

 特殊合金による人工筋肉と幾重にも覆われた複合装甲によって構築された全長9メートルにもなる機械の鎧。機体に装着されたバーニアは瞬間的にだが戦闘機を超える機動力を持ち、装備された兵装は戦車を凌駕する突破力を誇る。

 一人の兵士を超人に変える、先端技術の粋を集めて作られた戦闘兵器。

 そんな力を手にしてなお、戦場における兵士の命は相も変わらず軽かった。

 6機いた部隊の仲間も、そのほとんどが撃墜されており、ちょうど今、すぐ横を並走していた最後の僚機反応がロストする。

 周囲の状況は1秒ごとに悪くなっていた。

 もはや機体のサポートシステムが弾き出した「比較的被弾しないであろう機動」を必死でなぞり、あとは運を天に任せるしかない。絶望的としか言いようのない、そんな状況。

 阿鼻叫喚の地獄の中、冷たくて硬い機械に包まれたこの状況下で男の脳裏に浮かぶのは、今そこにはない物のことばかりだった。

 例えば二日前、任務のため家を出ようとした男を見送りに来てくれた妻。

 二、三日で終わる簡単な仕事だから心配しなくていいと笑う男に、それでもなお不安そうな顔をする彼女の、その頬を撫でた時の柔らかい感触。

 そして出発直前、妻に促されてまだ一歳にもならない娘を抱き上げた時に感じた、腕の中に広がる仄かな温もり。眠たげに身動ぐ娘の、弱々しいけれど確かな命の重み。

 まだ、その時の感触が男の手には微かに残っている。

 彼の思いは一つだった。

 帰りたい。

 帰って、もう一度家族を抱きしめ、愛していると伝えたい。

 男は願う。

 あぁ、神様、僕を、僕たちを、


『歯車に祈りはいらない』


 不意にオープンチャンネルで届いた誰かの言葉。

 直後、ロックオンを警告する電子音声が男の耳元で鳴り響き、そして、

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