届くはずのない青空に手を伸ばす君を殺して。
透メ
僕と彼女
第1話
ピッピッピッピ_
無機質な白いカーテンに白い壁。
そこで鳴るのはこれまた無機質な機械音。
部屋の角にひっそりと置かれているそれなりに新しく見えるが存在は主張できそうもない白いベット。
そこに寝転がるのは、白…ではなく薄い空色のパジャマを着たわたしだ。
「
航空会社に勤める母、設計家の父がそれぞれ1文字ずつ字を選んだ結果、このよく分からない漢字を組み合わせた名を持ったわたしが生まれた。
この名付け方からして、わたしは一見愛されているように見えるだろうか。
確かに2人はわたしを愛してくれていた。
しかし、それはもうすでに過ぎ去った過去の話。
事の発端は数年前、父が死んだ時からだ。
普段は事務所内でのみ仕事をする設計家でありながら、温厚だった父は、建築家の相談に答えるため建築現場へと直接足を運んだ。
その日、父は不運な事に固定が不完全であった鉄パイプが首に直撃し、ほぼ即死した。
父の訃報を聞いた母は突然狂ったように泣き叫び、怒鳴り散らし、もがき続けた。いや、実際狂っていたのかもしれない。
母の狂気は暴走の一途を辿り、怒りの矛先は、いつしかわたしに向けられた。
「あんたが居なければ!あんたさえ居なければッ!!!」
「お前なんか産まなければッ、あ…あの人はきっと………ッ!!!…絶対死ななかったのよッ!!!!!」
時に嗚咽が混じった声で母は叫ぶ。
日々の罵声はわたしの心を抉っていた。多分。
結局、母はわたしをそこまで愛していなかったのかもしれない。
本当に、いや実際に好意を抱いていたのは父だけだったのかもしれない。
父がわたしを好きだったから、母も好きでいたのかもしれない。
今になってはそういう妄想も浮かぶ。
それとも、溺愛していた父がわたしばかりを愛していたというフィクションでも作り上げたのか…
母だって少しはわたしのことを好きでいてくれただろう、という昔のわたしの被害妄想は、もう塵と等しい状況だ。
わたしは寝転んだ状態で自分の首だけを動かす。
見下ろした先にあるのは、両腕に繋がれたおなじみのチューブ。
見慣れてはいるもののどんな効果がある液体が入っているかは分からない点滴。
横には24時間365日フル稼働の名前の知らない機械。
個室の病室である。
わたしは母からの虐待などが種となり、1日のほとんどをベットで過ごすようになってしまった。
もともと周りより体が弱いこともあり、母からの暴力がトドメを刺し、さらに状態が悪化していったのだ。
一人で歩くこともままならなず、走るなんてことはもっての他。
この体ではわたしに自由なんてものはほぼない。
いつも見る担当の看護師とも必要最低限な会話しかしない。
別に早く死にたいとか逆にもっと自由に過ごしたい、やりたいことをやってみたいとかそういう意思はない。
もう、自分のことも他人事みたいになって、正直、自分のことが分からない。
何を望んでいるのか、一体何が正解なのか、分からない。
わたしは、このままずっとベットの上で一生を過ごすのだろうか。
全く、なんてつまらない時を過ごしているんだろう。
「はぁ。」
一人だけの病室でため息を吐く。
もちろん、それを受け止めてくれる人は誰もいない。
「ため息なんか吐いて、どうしたんですか?」
「えっ」
私以外誰もいないはずの病室に私以外の声がした。
首だけを動かして声の主を探す。
いた。
白いカーテンの前、声の主はいた。
カーテンからは夕刻の赤い光が漏れて逆光となっていたため顔は良く見えない。
でも、その人はなんかおかしい。いや、だいぶおかしい。
だってその人の立ち位置は普通なら逆光になり、影ができる場所だ。
それなのに、その人の足元には影がないんだから。
「君は、誰?」
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