葬列の英雄譚
亜未田久志
第1話 自分が生まれた日
寂れた村で彼は生まれた。
奇しくもそれはとある英雄の生誕地だった。
それが儀式に最も適していたから。
一筋の血が骨となり肉を付け体を成していく。
そこには一人の少年の姿があった。
灰色の髪は伝承の英雄と瓜二つ。
かの魔王レイガリアを倒した彼、セイシャの写し身。
それを生み出した邪悪な魔法使いは彼にこう名付けた。
「セイジャ、貴様の名だ……覚えておけ……」
「セイジャ……?」
「お前は戦乱の種となる、混沌の始まりとなる」
「なにを」
邪悪な魔法使いはそれ以上語らない。
いや、語れない。
ホムンクルスを作る代償に己の命を使ったからだ。
独り、残されたセイジャは。
用意された服を着て。
家を出た。
何もない村。
赤子の泣き声すら聞こえない。
自分の行く先を案じていると。
目の前に青色の髪をしたローブの少女が忽然と姿を現した。
「誰だ」
「お迎えにあがりました。英雄の写し身よ。世界はあなたを待っております」
「……」
セイジャは生まれたばかりだ。
何も判断することなど出来ない。
今はただ、目の前の少女に従うだけ――そこに。
「待ちなさい!」
赤い二つ結びの旅装束をした少女が炎魔法を撃ってきた。
躱す青髪の少女と。
手をかざすだけで防ぐセイジャ。
「流石です、英雄」
「英雄は死んだわ。その子を巻き込まないで」
邪悪な魔法使いが言っていた混沌とはこの事だろうか。
今はまだ分からない。
※※※
英雄セイシャは女神ローベルの加護を受けていたという。
それは絶対的な魔法耐性。魔法が跋扈するこの世界でとびきりの異能と言えた。
セイジャにも勿論、それは受け継がれていた。
「申し遅れました。私は魔王軍幹部、リーグルス」
青い髪の少女が恭しくこちらに頭を下げる。
無言でそれを見つめるセイジャ。
赤い二つ結びの少女も語る。
「やっぱり! あなた魔王軍の残党だったのね! 我が名はシーメル! 魔王討伐軍のリーダーよ!」
「おや、そうですか、魔王討伐軍の頭は代替わりしたのですね。随分お若いこと」
「あんたいくつよ」
「女性に年齢をたずねるものじゃありませんよ小娘」
リーグルスとシーメルが同時に魔法を展開する。
間にセイジャが居る事もお構いなしに。
洪水と業火が左右からセイジャを襲った。
丁度、真ん中でそれは拮抗する。
セイジャは鬱陶しそうに手でそれを払った。
それだけで魔法は霧散した。
「流石……!」
「ちっ、ねぇあんた!」
「……俺か?」
「そうよ! あんたどっちにつくつもりなわけ!?」
シーメルに尋ねられたセイジャは首を傾げる。
「どちらかにつかなければいけないのか?」
絶句。
まさかの答えにリーグルスもシーメルも困惑するしかなかった。
彼女らはどちらかに彼がつくと思ってここまで来たのだから。
「クッハハハ! これは面白い! サジタルのやつ、面白いものを残してくれた。まさに混沌の種だ」
「どっちにもつかないって、あんた自分が何か分かってないから――!」
そこでリーグルスが剣を抜き、シーメルに斬りかかる。
セイジャはその様子を他人事のように眺めながら。
「自分が何者か、か。うんいいなそれ」
「はぁ!?」
「おやおや、自分探しの旅にでも出るおつもりで?」
「そうするよ」
セイジャは体が覚えている転移魔法を使ってその場から消えた。
リーグルスとシーメルは剣戟を止め。
一時的に戦闘行為を止める。
「あんたを見逃す理由はないんだけど?」
「英雄の写し身を野放しにしておく方が危険なのでは?」
シーメルは舌打ちをすると転移魔法を使って消えた。
それを見た後リーグルスは夜空を眺め。
「魔王様、あなたの目指した混沌、皮肉にもあなたを殺した者によって叶えられるやもしれません」
そう言ってほくそ笑んだ。
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