街で過ごしながら、魔物を倒す ⑥

「……なんだか魔物の気配が少ない?」

「例の魔物が現れた影響で、このあたりからいつもいた魔物が居なくなっているのかもしれないわ」




 街の外に数日ぶりに出たわけだけど、以前とは異なっていた。

 ……魔物の気配が極端に少ない。まるですべての生物が消え去ってしまったかのようにその場には静寂が訪れている。






「例の魔物の影響って、人だけじゃなくて魔物にも起きているんだな」

「それはそうよ。寧ろ、魔物側にこそより一層影響が強いことよ」

「そっか」






 恐ろしい魔物が現れた影響は、俺が思っているよりもずっと大きいのだろうなと思った。俺は人のことしか考えていなかったけれど、魔物の方がずっとそれの影響を受けてるとか……そういうことは実際にこうしてみてみないと分からないことだ。

 なんていうか、頭では知っているつもりでも想像している影響と実際の影響って違うものなんだなと思う。


 というか多分、俺が想像しているよりもずっと大きな影響力があるものだろう。








「例の魔物、今の所、周辺にはいなさそう?」

「そうね。私は気配は感じられないけれど、油断はしない方がいいわよ。これだけの規模の街が討伐を試みて上手くいかないということにはそれ相応の理由があるはずよ」

「それはそうだな。討伐隊が出てもなお、正体不明らしいし」

「それがまずおかしいのよ。討伐隊の中で帰還者が一人もいないという状況ならばともかく、そうではないのよ。それなのにこれだけ情報が落ちてこないということがそもそも異常だわ」






 ……俺は深く考えていなかったけれど、確かにフォンセーラの言う通りだと思う。というか言われるまで俺はそのあたりに思い至っていなかった。








 討伐隊は討伐に失敗した。

 とはいえ、一人も街に戻ってこなかったわけではない。数は減らしたが、確かに帰ってきているのだ。

 その状況下でどうして魔物の状態が一切分からないのか。対峙したのならば少なからずその魔物の情報を把握できるはずなのだ。






 それでも全くの情報が落ちていない。

 ――その異常な状況を、俺は少し恐ろしいと思う。






「……なんでそういう情報が落ちてこないんだろうな」

「姿を一切見せずに犠牲者を出しているのか、それとも記憶が残らないような何か力があるのか」

「そういう不思議な力がこの世界にはあるんだよな……。母さんが行っているような常識改変みたいなのが出来るような魔物だったら恐ろしいなぁ」



 どういう理由でその魔物の詳細が分からないのか。

 それに関しては今の俺では分からない。実際に対峙してみれば何かしら情報が落ちるだろうか。








「咲人は何も心配しなくていいの! 僕がどうにかするし、何かあったら乃愛呼ぼう」

「母さんは父さんとの時間を邪魔すると嫌がるんだよなぁ……」

「大丈夫! 乃愛はなんだかんだ家族は大事にしているもん。本気で怒ったりはしないだろうし」

「まぁ、それはそうだけど。流石にずっと母さんのことを当てにして過ごすつもりはないからなぁ」






 最悪の場合は結局母さんを呼べばなんとかなるだろうけれども、そんな風に母さんをずっと呼び続けるのも情けないし自分の力でなんとかしたいなとは思っている。






「サクトとクラはこういう時でも呑気ね。落ち着いていることは良いことよ。戦いの場で慌ててしまったら大変なことになってしまうもの」

「不安はあるけど、一人じゃないからなんとかなるかなとは思っているから」






 不安はあるかもしれないけれど、結局のところは俺はなんとかなるとそう思っているのだ。一人でこういう場面に遭遇したらこんな風に落ち着けなかったかもしれないけれど、でもクラとフォンセーラがいるから。





 そんな風に会話をしながら、俺たちはその魔物を探して歩き回る。




 ――とはいえ、魔法を使って気配察知をしていてもなかなかその魔物には遭遇出来なかった。実際に俺たちが探している魔物がどういう魔物なのかというのが分からないから探すのも難しい。





 どういう見た目をしているのだろうか。どのような攻撃手段を持ち合わせているのか、なぜ人々の記憶にその情報が乗らないのか。そして討伐隊たちがなぜ倒せないのか。

 本当に何の記憶にも残らない魔物だったらそもそもこうやって騒ぎにさえもならない気がするし、その点考えるとよく分からないなと思う。

 どちらにしてもこのまま放置しておけば被害者が増えるだけで、俺たちが街の外に出ることも難しい状況になってしまうので倒さなければならないことは間違いない。





 ……本当にどういう魔物なのだろう? 母さんの常識改変には俺は抗えないけれど、そういう力をその魔物が持っていたら俺はどうにか出来るのだろうか?






 そんなことを考えていた時に、突然、目の前に変化が起きた。





 ――現れたのは霧である。

 一気に視界が悪くなった。霧が現れるような予兆など全くなかったのに、こんな状況に陥るなんて普通ではないだろう。








「咲人、フォンセーラ。魔物、来るよ」






 その言葉と共に、体を巨大化させたクラに服を咥えられて、その場から動かされた。

 ――俺の先ほどまでいた場所がえぐれていた。


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