街で過ごしながら、魔物を倒す ④

 母さんが本気で怒ったらどうなるかというのは俺も憶測でしか分からない。

 だって俺の知る母さんというのは、父さんの傍にいる母さんだから。でもきっと怒ったら大変なことになるだろう。






「ノースティア様がお怒りになられた記録はいくつか伝わっているわ」

「母さん、どういうことで怒ってたの?」




 この世界に伝えられている母さんの怒りの記録。……まぁ、寿命が神様よりもずっと短いから、残っている記録というのもつぎはぎなものらしい。


 


 彼女のお気に入りに手を出した存在が灰にされた。

 彼女の機嫌を損ねた存在がいた国が亡ぼされた。

 彼女の遊びで一つの種族が絶滅した。



 そういう物騒な記録。母さんは自分の意見を曲げないし、自分のやりたいことを我慢なんてしない。そういうタイプの性格だ。……流石に地球では母さんは父さんに言われて大人しくしていたわけだけど。


 





「母さんらしいというか、本当に自由気ままだからなぁ。これから母さんは色々起こしそうだな……」

「ノースティア様は神界ではなく、下界を見て回るって話だったわよね?」

「うん。父さんがこの世界を見て回りたいって言っているから。それに父さんは目立つのとか好きではないし、普通に旅人として世界をぶらぶらするんだと思う」




 どこにでもいるような旅人のように、母さんと父さんはのんびりとぶらぶらするのだろう。

 ただ流石に神である母さんは目立たないようにしても、目立つんだろうけど。でもあれか、常識改変とか出来るから、そういう力を使って周りに全く悟られずに色々起こすのだろうか。



 




「ノースティア様が普通に旅をする……それだけでも神話なのよね。神であるノースティア様の起こすことをこの目で見れるかもしれないなんて……」

「神話かぁ」


 神話と聞くと、なんだか随分遠い物に思える。だって地球でいうとそれは伝え聞いているものでしかなくて、実際にそれらに関わることなんてないのだ。でもこの世界では神様という存在が身近で、というか俺は神である母さんの息子だから身近どころか、血縁者の話だしなぁ。






 ……母さんと父さんが起こしたこと、何でもこの世界では神様が起こしたこととして伝えられていくのかな。母さんは面倒になったら全員の記憶消したりしそう。寧ろそれで記憶が残っているのが母さんと父さんだけって状態の方が母さんは喜びそうだし。








「サクトのこれから起こしていくことも、神話として伝えられていく可能性が十分にあるわ」

「……なんかそれはそれで嫌だな」




 俺の行いが神話として伝えられていくなんて、なんだかちょっと嫌だと思う。

 というかさ、母さんの噂ってそれはもう色々と出回っているのだ。その中には真実もあるし、決めつけられた噂もあるだろう。母さんってなんていうか、自分の行いが周りにどう思われるとか本当に何も考えていないのだ。




 なんていうかメンタルが強いというか……。

 フォンセーラは神話と関わることも全く気にしていないというか、寧ろ望ましいと思っているようなそんな感じっぽいけど。







 フォンセーラと会話を交わしながら、魔法を行使して魔物を倒していく。

 とはいえ、ずっと喋っているわけでもない。俺が魔物討伐をしている間に、フォンセーラは俺を見える位置で自由にしていたりしていたわけだ。






 ――さて、そうやって過ごした後に街に戻ったら出る前と雰囲気が異なっていた。










 


「なんだか様子が変だな」

「何かあったのかもしれないわ。情報は集めておきましょう。何かあった時に逃げられるように」




 旅慣れしているフォンセーラは、何か不測の事態が起きた場合はこの街から去ることをもう視野に入れているらしい。旅人という立場だと、そういう非常事態に巻き込まれると高確率で命を落とすことも多いようだ。今まで一人旅をしていたフォンセーラはそういう危機管理能力が本当にはっきりしている。






 俺もフォンセーラと一緒に、情報収集をすることにした。

 それにしてもフォンセーラは人から話を聞き出す能力も高いようだ。さりげなく話しかけて、情報を集める。性格的に社交的というわけではないけれど、こういうところはしっかりしている。




 そこで聞いた話は、




「魔物が現れ、死人が出ている。しかし遭遇した人間が全員死んでいる」

「詳細不明な魔物がいるかもしれない……というのが恐ろしくて仕方がない」




 というそういう話だった。








 この世界では魔物と言う存在が身近である。魔物によって人の命が失われることもよくある話である。

 だけどどういう存在か分からない魔物というのは、恐怖の対象なのだ。








「正体の分からない魔物か……。どうなるんだろう」

「そういう危険な魔物は冒険者ギルドが対処するはずよ。討伐されるまでの間、外に出るのが難しくなるかもしれないわ」



 俺の言葉に、フォンセーラはそう答えた。


 




 実際にフォンセーラの言っている通り、翌日から街の外に出るのは難しくなった。

 ――それから、その街の雰囲気は日に日に重くなっていった。

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