街を探して歩いていると盗賊に遭遇した ③


 盗賊と遭遇して俺は焦りよりも、本当にそのようなことを言う人間がいるのだとそちらの方に驚いてしまった。

 なんで、俺こんなに冷静なんだろう……と思ったけれど、母さんが何かしているのとフォンセーラと一緒に居るからなんだろうなとは思った。






 俺はフォンセーラの方をちらりと見る。

 こういう盗賊に遭遇した場合にどういった対処をするのが一番良いのか判断がつかない。

 自分の命を脅かすような相手ではあるので、おそらく命を奪ったところで何も言われることはないだろう。






 ただそういう対応をしたことは俺にはないので、まずはフォンセーラさんに任せたいなどと思ってしまう。しかしこんな風に任せっぱなしにしているのは中々、情けないのだろうか……。いや、でもいきなりは正直無理。

 なんかこうやって色々考えている俺は案外、冷静なんだなと思った。












 フォンセーラは不快そうな顔をしたかと思うと、そのまま詠唱を紡いだ。警告などもせずに魔法を完成させ、目の前に居た盗賊を拘束した。








「サクト、こういう盗賊は殺すか、捕まえて差し出すかよ。冒険者の登録はしてないのよね?」

「俺はしてない。そういうのに縛られずに過ごそうと思ったから」

「それも一つの道ね。まぁ、冒険者登録をしなくても盗賊は差し出せるわ。……折角だから対人戦の練習をしてみる?」






 先ほどまで回避してみるかと問いかけていたのに、いざ対峙してしまったからとそんなことをフォンセーラは軽く聞いてくる。

 俺がこの世界のことに全く慣れていなくて、この世界で俺が生きていくためにもそういう対人戦にもっと慣れたほうがいいとそう思ってくれているのだろう。俺もこの世界で生きていくことを自分の意思で決めた。ならば、今まで住んでいた地球の常識にとらわれることなく、この世界で生きていくためにもそのあたりはちゃんとしなければいけない。










「やってみたいかも……。上手く出来るか分からないけれど」

「なら、やってみましょう。向こうに隠れているのが居るわ。魔法で感知してみて」








 フォンセーラに言われるまで俺はその隠れている人を感知することなど出来ていなかった。俺と話しながらもフォンセーラはちゃんと周りのことを見ていて、それに気づくことが出来るのは凄いことだ。それだけフォンセーラはこの世界で経験を積んでいて、盗賊と対峙した時の対応を熟知しているのだ。






「ええっと」




 俺は試しに魔力を操る。

 どこに誰が居るか……うん、意図して察しようとすると難しい。というか、俺の魔力が多すぎるのか広範囲に広がりすぎる感覚。一気に色んな情報が頭になだれ込んでいて処理しきれない感がある。






「ノースティア様が処置していなければ、今頃暴走してそうね……」

「……俺もそんな気がする。えっと、多分あそこ?」

「そうよ」




 一応、処理しきれない中でも隠れている者がいる場所は見当がついた。とはいっても本当に方向だけだ。






「捕まえてみる?」

「やってみる。……なるべく殺さないように」

「殺しても構わないわよ。盗賊だもの」






 そうはいっても出来れば殺したくはないなとは思う。こういう世界だから必要に応じて誰かに命を狙われるとか、誰かの命を奪わなければならないとかありそうだけどもうちょっとこの世界に慣れてからがいいなぁ……。




 


 無詠唱で魔法を行使する。殺傷能力がないものだ。

 風で彼らの体を攫う。その段階で魔法を使われたことに彼らは体をばたつかせていた。こんな風に魔法を使われることは彼らにとってなかったのだろう。そしてその盗賊たちの意識を奪う。これはうまい方法が分からなかったので、魔法で石を持ちあげて物理的に気絶させた。

 その後も魔法を使って拘束する。縄で自分で拘束とかやり方分からないし。








「本当にサクトの魔法は素晴らしいわ。習いたてでこれだけ出来るのならば、もっと素晴らしいものになるでしょう」

「……なら、良かった」

「ちょっと疲れたかしら?」

「うん。ちょっと調整が……。上手くやらないとすぐ死んじゃいそうだったから」

「殺さないように相手を無力化する練習をもっとしましょうか。何かあった時に誤って誰かを殺すと面倒なことになるわ」




 やっぱりこの世界は、俺の生きていた世界とは倫理観がずれている。

 そういう世界で母さんは産まれて、自由に生きてきたんだなぁ。




 


「サクトは強い力を持っているから、気に食わない相手を殺しても文句は言われない立場にはなれると思うわ。でもそれをあなたは望んでいないのでしょう?」

「うん」

「なら、人相手に殺さないように魔法を使うことは重要だわ。まだまだ沢山いそうだから、練習よ」

「うん」






 母さんは神様だから、そういう立場であることは自然だ。きっと当たり前だと思っている。でも俺は母さんの息子でも、母さんではないからそのあたりは自分がやりたいように出来るようにちゃんと練習したいと思った。




 だから結局回避出来なかったのだから、盗賊の相手をしながら制御の練習をしようと俺は腹を括った。

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