母さんを信仰するということ ④
飛び出してしまったのも、咄嗟に魔法を使ってしまったのも――フォンセーラさんがこのまま大変な目に遭うのが嫌だと思ってしまったからだ。
フォンセーラさんは俺に解体を教えてくれた人であるということ、あとは母さんの信者であるということ。
その二つのことだけで飛び出してしまった俺は考えなしなのかもしれない。
でもまぁ、嫌だと思ったのならば飛び出すのは当然だよな。
俺の風の魔法が、男たちの体を吹き飛ばす。命を奪うほどでなかったのは、俺が人の命を奪うことは流石に躊躇してしまったからだ。ただ動けないようにはしている。
「……なぜ、あなたが此処に?」
俺の魔法を見て驚いた表情をしていたフォンセーラさんは、問いかける。
「たまたまです。フォンセーラさんが襲われていたから、飛び出しました」
「何をやっているのですか!」
助けたのに怒られて驚いてしまう。
「彼らは甘くありません。今すぐ逃げなさい」
――そんな言葉を俺にかけてくれているのは、フォンセーラさんが優しいからだと思う。なんだかんだこちらに向かって思いやりがあるからこそ、俺に逃げた方がいいなんて言ってくれるのだ。
俺はそんな風に言ってくれるフォンセーラさんをやっぱり放っておけないと思う。
「放っておいたら、フォンセーラさんが大変な目に遭うって俺でもわかります。俺はフォンセーラさんを置いていきたくないです」
「……あなた、魔法の腕は思ったよりあるようだけど彼らは甘くはないわ。命が惜しかったら逃げなさい!!」
これだけ厳しい口調で、命令するように言う。その意味は俺を心配しているからに他ならない。
……やっぱり自分を心配してくれる人が、危険な目に遭うなんて俺は嫌だ。他でもない母さんの信者であるし。まぁ、母さんは多分、自分の信者とかどうでもいいとは思ってそうだけど。
「嫌です! フォンセーラさん、逃げましょう!!」
俺はフォンセーラさんの手を掴む。了承を得ずに手を引いてしまったけれど、こういうときは仕方がない。
「逃げるって……どこに行く気よ。もう街には戻れないわよ!」
「荷物はいつも持ち歩いているから問題ない。それに行く場所なんてどこでもいいです!」
あの街にとどまっていたのは母さんが近くに移動してくれたから。本当にそれだけが理由なのだ。
世界は広い。別にあの過激集団がこの世界を牛耳っているとかそういうわけでないのならばどうにでもなると思う。
俺が躊躇いもせずに言い切った言葉に、フォンセーラさんは驚いたような表情を浮かべる。
そしてすぐに 呆れたような表情へと変化する。
「――あなた、後悔するわよ。私は闇の女神であるノースティア様のことを信仰しているわ。それは私にとって変えられないものだわ。だから、私を助けると苦労をするわ。彼らに目をつけられるわ。今ならばまだ逃げられるわよ」
一緒に駆けながら、そんな声をあげるフォンセーラさん。
まだ俺のことを逃がそうとしている。俺があの集団に追い回されることを良しとしていないのだろう。
俺はフォンセーラさんの言葉に笑ってしまう。
フォンセーラさんは自分が闇の女神である母さんの信者であることを言っているけれど、俺の方が母さんの息子なんであいつらからしてみれば排除対象だろうから。
「俺も似たようなものなので、どちらにせよです」
「それってどういう――」
俺の言葉にフォンセーラさんが問いただすように何かを言おうとする。
だけど、それは何かの力によって阻まれた。
――俺とフォンセーラさんの上に、何か網のようなものがかかる。それが魔力によって出来たものだと分かる。俺はそれがかけられても動けた。でもフォンセーラさんは息切れをして、動けなくなっていた。
俺の身体から何かが抜けていくような、そんな感覚にはなっているけれど――。
というか、さっき魔法で対処した男たちとまた別の連中か。どれだけ数がいるんだか……。
「なんで、お前は動けているのだ!!」
「お前も邪教徒か! 滅ぶが良い!!」
俺が動けていることがおかしいとでもいうような言いぐさ。いや、これ何の魔法? 俺には何の魔法がさっぱり分からない!
フォンセーラさんが苦しそうな声をあげながらも、何かを懐から取り出す。
陶器で出来た人形。
女性の姿をしたそれに、何かを言っている。
「ノース、ティア様、私の、……捧げ、ます。どうか、お助け、さい」
必死に声を、その人形にかけている。それでも、何も起こらない。
「……ください。彼……」
何を言っているか、俺には聞こえない。何をしているかも分からない。
でも俺達を捕らえた男たちには、フォンセーラさんが何をしようとしているのか分かっているらしい。
「ははっ、邪神は答えてくれぬようだな」
「ざまぁないな! このまま滅びるが好い!!」
それは、母さんを呼び出すためのものらしい。
どういう原理で、そういうことが起こるのかは分からない。けれど、それが母さんを呼び出す何かだというのならば、どうにでもなる。
「フォンセーラさん、ちょっと、それ貸して!」
幸いにも網でとらえられてはいるとはいえ、俺は身動きは取れるのでフォンセーラさんに手を伸ばしてそれを奪い取る。
「母さん! ごめん、俺、ピンチ! 助けて!!」
情けないと思われるかもしれないが、俺はそう叫んだ。
だって俺はともかくとして、フォンセーラさんは何かあったらどうしようもないから背に腹は代えられない。
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