母さんを信仰するということ ②
光の女神イミテア様を信仰する過激集団。
彼らはまだ街にとどまっている。彼らが街にいるため、街に活気がなくなっている。
外を歩いているだけでも警戒しなければならないので、ちょっと俺としては早く街からいなくなってほしいなと思ってならなかった。というかあれだなぁ、なんというか、この世界は神というものが身近にいるからこそ、余計にそういう過激な連中が多いのかもしれない。母さんを過激に信仰する人もきっといるんだろうななどとそういうことも考える。
この街にとどまっているあの集団は何かを探している様子であるとのこと。どうやらその探し物を見つけるまで街から去る予定はなさそうだった。というのを世間話を交わす程度には親しくなった街の女性に聞いた。
「はやくその探し物を見つけて去ってくれればいいのだけど――」
街の中は、どこか緊張感に包まれている。冒険者たちもあまり街に寄りついていないようにも見えた。それに関しては冒険者というのは様々な信仰を持つものが多いらしい。生まれ育った村ではこの神を信仰していたので、そのまま信仰しているとかそういうのもある。
というか、この世界には様々な神様というのがいるので光の女神イミテア様だけを信仰し、自分たちによって都合の悪いものは全て異教徒にするといった考え方は様々な争いをうむものだ。関わりたくないと思っている者たちは過激な信仰集団を刺激しないようにしようとする。彼らには話が通じないので、真正面から会話をしようとしたら様々な制裁を加えられるらしいのだ。それは暴力だったり、命を奪ったり……本当に恐ろしい話だ。
……あと、もう一個俺が一番ぞっとしたことは彼らにとって闇の女神ノースティア――要するに俺の母さんは、
「イミテア様のためにもあの邪神を我らは滅ぼさねばなりません」
「それこそがイミテア様の御心なのです」
排除しなければならない対象であるということだった。
普通に考えてただの人間が神を滅ぼすというのはまず無理な話であろう。それこそ何らかの神様の力を借りないことにはそんなことは成し遂げられないだろう。
……光の女神イミテア様が本気で母さんを排除しようと考えているのならば、様々なものを巻き込んだ大戦争に発展するんだろうななどと俺は思う。しかし母さんとイミテア様が過激集団の言う通りの関係性であるとは俺には思えない。
というか、母さんはイミテア様のことを”お姉ちゃん”と呼んでいたのだ。
母さんは特別な存在には愛情深い。それこそ重すぎて周りが引くレベルの思いを抱えている。逆にどうでもいい存在には本当に驚くほどに冷たい。多分、その辺に飛んでいる虫とどうでもいい人に関しては同列ぐらいの位置だと思う。
その母さんが親しみを込めて”お姉ちゃん”などと呼んでいるのだ。母さんはイミテア様のことを嫌いではないだろう。そもそも華乃姉と志乃姉が神界に受け入れられている時点で、この世界の神様たちにとって母さんは排除しなければならない存在ではない。そもそもあの母さんが誰かに排除されるなんて思えない。向かっていった者が全員命を落とす様子が簡単に想像できる。
この世界、神様が地球よりも身近とはいえ誰でもその声を聞けるわけではない。誰もがその意思を確認できるわけでもない。……だからこそ、多分皆想像するのだろう。
なぜ神がこのような行動を行ったかというのを。……それでその想像が明後日の方向に行っているのがきっとあの過激集団たちなのだろうなと思う。
それこそが正しいと思い込んでいるから、彼らは本気で母さんを排除したいと思っているのだ。イミテア様の意思など関係なく、それこそがイミテア様のためになると思い込んで。
うん、怖いものだと思う。思い込みのまま突き進んで暴走して、なんていうか本当に関わりたくない。
そんなことを考えながらも、目をつけられないように俺は大人しく過ごしていた。
街の外に魔物を狩りに行くのもちょっと自重していた。というのも、その集団は探し物をするために、街の周辺もぶらついていたのだ。
見回りの騎士たちが止めたので大事にはならなかったらしいが、街の外で薬草を摘んでいた薬師見習いがリンチされそうになったりといった事件にも発展していたようである。ちなみにその薬師見習いはイミテア様以外を信仰していたそうだ。
一つの神以外の信仰を認めないみたいな考え方があるならそもそも他の考え方を持つ者が多い街中になんてこなければいいのにと思ってしまう。イミテア様を信仰する者たちの村でも街でも作って大人しく生きていった方が平和的だ。
まぁ、そういうわけで「うわぁ……」と過激集団に引きながらも俺は目をつけられないように過ごしていたわけである。
俺が母さんの息子だって知られたら本当に大変なことになるのが目に見えてたしな。
ただそんなある日――、
「向こうにいったぞ!!」
「あの女は逃がすな!!」
たまたま街の外に出た時に、あの集団を見かけた。加えて何かを――それも人を探しているらしいと言うのがその会話からも分かった。
魔法を使って気配を消し、俺はやり過ごした。
でも誰かが終われていると思うと、気が気じゃなくて確認しに行った。
――追われていたのは、フォンセーラさんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます