異世界に召喚される ②
正直、俺の感想は「え、此処何処?」というそれだけである。
ええっと、召喚って言った?? その単語で思い浮かぶのは、小説や漫画で見かける異世界召喚という奴……。
そんなことが起こるわけがないと思っていたのに、実際に目の前にその現実があると認めざるを得ない。
……でもなんていうか、俺って望まれて召喚されたっぽくない。
しかも聞こえてきた声が”闇の女神ノースティア”などという声。
……俺は当然、男だし。そもそも神様なんてたいそうなものではない。その神様か何かを呼んで、俺が呼ばれたという事実が本当に意味不明すぎる。
だって俺は異世界とは全く関わりのないはずで、そんなものがあることさえも知らなかったのだから。
「――あの」
向こうが自分に対して、敵意をあらわしている。とはいえ何故か言葉は通じそうなので言葉をかけてみることはありだろう。
そう思ったので、声をかけてみる。
さっきは気が立っていただけで、実は話が通じるのではないか……と少し期待した。
でも、
「ええい!! 煩い!! なぜ、多くの供物を捧げたというのにこのようなノースティア様と何のかかわりもなさそうな小僧が召喚されたのだ!! 忌々しい!」
彼らは俺と話す気は全くないらしい。
供物などという物騒な言葉を聞いて、あたりを見渡せば倒れこむ人が映る。赤い血液が流れており、見るからにそれは死体だった。
――それを認識した時、吐きそうになった。
目の前の状況を整理すると、俺は召喚されて、その召喚のための犠牲として人が死んでいるということのように見えた。
この非現実的な状況に、怖ろしい気持ちでいっぱいになる。
夢だったのならば覚めてくれればいいのにと思うけれど、おそらくそうではないだろう。
――父さんは、何か予想外の状況に陥った時も冷静であることが一番だと笑って言っていた。
これは夢ではなくて、現実っぽい。
で、俺を召喚したらしい人たちは俺のことを疎ましく思っていることは明確だ。
……供物なんて残酷なことを行う人が、俺をこのまま無事に生かしてくれるという保証はない。
冷静に行動をする、とはいってもどう動いた方がいいのか?
こういう状況になるなど想像もしていなかったので、どうしたものかと全く思考が進まない。
「この小僧はどうする?」
「殺すのがいいだろう」
「待て。本当にノースティア様と何のかかわりもないのか調べてからの方がいい」
俺を殺すと、ためらいなく告げる言葉。
……ああ、本当に異世界にきているのだなと実感する。俺の生まれ育った日本だったならば、よっぽどのことがない限りこんな風に物騒な会話をされることはない。
俺が彼らの言う女神様と本当に関わりがあるのならば殺されない未来もあるのかもしれない。それか、目の前の存在たちにとって自分が生かす価値があるとそれを示せれば別なのかもしれない。
「あ、あの! 俺は異世界から来ました! その情報をあなたたちに話すことが出来ます。俺は死にたくありません! 生かしてくれないでしょうか?」
恐怖心が自分の心を支配している。だけど、俺は自分で言うのもなんだけれど本当にどこにでもいる高校生でしかない。だから、調べられたとしてもそのノースティアという女神様と関りなんてものはない。
なので、自分の出せるものを出してなんとか生き延びようと試みる。
だって多分、此処は異世界なのだから――俺の知識は彼らの好奇心を刺激するのではないかとそう思ったから。
でも、それは俺の自惚れでしかなかったようだ。
「そのようなもの興味はない。確かに闇の女神ノースティア様は異世界に消えた可能性はあると言われているが、それが小僧の世界とは限らない」
「そもそも異世界の情報など、過去の『勇者』からの情報で散々持っておるわ!!」
「ふんっ。やはりこのような小僧がノースティア様と関わりがあるはずないのでは?」
――ああ、やっぱり無理か。
他にどうにかこの状況を打破するにはどうしたらいいんだなどと考えていたら、ローブの男のうちの一人が俺に近づき何かを振りかけた。
特に何もない。……俺、何かされた?
「何の反応もなしか。これをどうとるべきか」
「たまたまそういうこともあるのかもしれない。なんせ、本人が言うには異世界から来た個体だからな。焼かれたりするかと思ったが」
……目の前の男たちは、俺のことを本当に道端に生えている雑草か何かのようにどうでもいいと思っているのだろう。
焼かれる……というのは肌が焼ける可能性があったということだろうか。
それが効かないというのは俺に召喚に伴って何かしらの能力が付与されているとか? いや、それは楽観的過ぎる。俺は自分が変わった自覚は全くないので、何の力もないと考えた方がいいだろう。
それから俺は男たちに実験のようなものをさせられた。その中には痛みを伴うものもあって、正直死ぬかと思った。俺の血も採取して、何か話し合っていた。
「ふむ、やはりただの小僧のようだ。殺そう」
そして男の一人がそう言って、杖のようなものを構え何かを紡ごうとしたとき、
「咲人、こんなところで何してるの? 博人が心配しているよ」
この場に全く似つかわしくない聞きなれた声が聞こえてきた。
「……かあ、さん?」
そこにいたのは、まぎれもなく俺の母親である薄井乃愛(うすいのあ)だった。
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