バァスデイ・ポトガラヒー

馳月基矢

 また会おう、とりょうは言った。

 明日からしばらく長崎を離れるきに、と、あいさつをしにうえ撮影局を訪れたときのことだ。

「おまさんとの約束、忘れちゃあせんぜよ。今年はちっくと難しいかもしれんけんど、いつかきっとな。やき、その日まで頑張りや。わしは、おまさんに撮ってもらう写真を楽しみにしちゅうき」

 龍馬は目を糸のように細くして笑っていた。目尻には笑いじわがくっきりと刻まれ、頬には縦長のえくぼができていた。

 さかもと龍馬。

 その名を聞いておが思い出すのは、くしゃくしゃの笑顔だ。それと、指切りをしたときに伝わってきた、小指の熱。

 上背のある人だった。いくぶん小柄なお登女より一尺ほど(約三〇センチ)も背が高かった。

 けれども、その大きな龍馬を怖いと感じたことはなかった。龍馬はお登女と話をするとき、必ず膝を折ったり腰を屈めたりして目の高さを揃えてくれていたのだ。

 そして、いつでも笑っていた。

 お登女は、龍馬のあの笑顔を写真に撮ってみたかった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る