第14話 昼食会
「皆さん、昼食会の準備が整いました。どうぞ、こちらへお越しください。」
ロックの案内で、ぞろぞろと練り歩く。
(このパーティも娘のためなんだろうな。まぁ、このぐらいは普通か。)
顔合わせの後に昼食会が設定されていたのは、やはり第三王女のためだったのだ。彼女の存在が無ければ、昼食会もなかっただろう。そう思うと彼女に向かって文句の一つも言いたくなる。――が、本心ではどうでも良いため、そう不満には思っていない。
(…ただ、仙人の領域に入ってないのに世界が色褪せて見えるのはどうにかならないのだろうか?)
これも己の世界を構築してしまった副作用か。世界に色はついているのだが、どうにも、どれもが同じように見えてしまうのだ。…それが辛い。
一行は案内されるがまま、大きな扉の前に到着する。
「この先が昼食会場です。皆さん、ぜひ親睦をお深めください。」
扉が開かれ、その先にはやはり多すぎる食事、それと――ゴッドステラ・オブ・ラーウス。
「皆さん、ようこそいらっしゃいました。ぜひ一緒にお食事を楽しみましょう。」
そう言って微笑む姿はまさに女神を錯覚させる。
(ハッ、こいつなら女王でも目指せそうだな。…本当に実現するかもしれないってところが怖いが。)
この、人を否が応でも引き付けてしまう引力、カリスマ。もし彼女に悪意があれば、あっという間に混乱に陥るだろう。
そして始まる昼食会。大人は大人同士で、子供は子供同士で分かれる。エルはなるべくノアとだけ過ごそうと思っていたが、横やりが入る。
「エルグランド殿、少し私と二人でお話しませんか。」
あのゴッドステラが話しかけてくる。どういう意図で話しかけてきたのか分からないが、これは誘いに乗るしかない。相手は自分よりも上位者、断る選択肢は取れない。
(大人しく過ごそうと思っていたが、そっちがその気なら少し相手をしてやろう。)
仙人の状態でなかったとはいえ、少し自分の色褪せた世界に光をもたらしかけたこの少女を知るにはいい機会だ。
「構いませんよ。」
二人は壁の方へ移動する。これで周りの人間には声は届かないだろう。視線はチラホラと向けられるけども。
「では自己紹介からしましょうかね。私はハーブルルクス家が三男、エルグランド・フォン・ハーブルルクスと申します。」
まずはエルが切り出す。相手は女性なので自分がリードすべきという貴族のマナーと相手の方が上位者という事実がエルに先手を取らせた。
「では私も。私の名はゴッドステラ・オブ・ラーウス。このラーウス王国の第三王女でもあります。よろしくお願いしますね。」
ふふ、と微笑むその姿は見る者を魅了するだろう。だが逆にエルは警戒を強めた。
(こいつ、自分の強みを分かってて利用してるのか? もしそうだとするならば油断できない。)
エルはゴッドステラの振る舞いが演技がどうか判別しかねていた。初めて会ったため、人となりが分からないというのもあるが、振る舞いが自然すぎるというのが大きい。どうしても演じている者は灰色に映るのだ、否応なく。
だがこの少女は灰色になるどころか、ますます輝きが増している。それはこれまでの経験則に則るとすると、ゴッドステラは何も演じていないということになる。もしそうなのであれば、危険度は格段に跳ね上がる。
(こいつが反ハーブルルクスを打ち出せば、それだけでハーブルルクスは窮地に陥るかもな。こいつの目指す先次第でこの国の未来も変わるだろう。…軽く探ってみるか。)
「ゴッドステラ様は国内の学院に行かれないのですね?」
「はい。私は王族ですから、あまり海外に行けないでしょう? だから、学生のうちに経験しておきたいと思ったんです。」
返答に不自然な点はない。動機としても自然ではある。
「なるほど。スペスで何かしたい事とかあるんですか?」
するとゴッドステラは辺りを見渡す。人には言えないことを言うつもりなのか?、とエルは警戒する。――が、
「その、買い食いをしてみたいです。」
恥じらう素振りを見せながら、小さい声で宣う。エルは予想外な返答に言葉が詰まる。
「…えーと? 買い食いというと、あの道端で食べるやつですか?」
「はい、それです」
さらに顔を真っ赤にして頷く。もしこれが演技だとしたら、一周回って天晴れである。
(…こいつはただの箱入り娘か? …あの国王なら十分ありうる。ということは俺に対する鈴じゃなくて本当に娘の願いを叶えるためだけにスペスに行かせるのか?)
軽く眩暈がする。さすがは王族、貴族に対する牽制はお手の物かと思っていたのに、これでは真面目に考えていた自分が愚かではないか。
(もういいや、俺も単純にいこう。)
「いいですね、俺もしてみたいんです。」
「ですよね! …あの、もしよかったら一緒にしませんか。一人でやるのは恥ずかしくて。」
そこまでしてやらなくてもいいのに、と思うが、どちらにせよ授業はサボるつもりだったので承諾する。
「構いませんよ。機会があれば。」
保険をかけておくのも忘れない。
「本当ですか? ありがとうございます。…ちょっと注目されてますね。このあたりで終わりましょうか。」
「ええ。またあちらでも話す機会はあるでしょうし。」
(周りは見えているのか。ただのお花畑ではないと。さすがにそれくらいできないとな。)
「ですよね。ではまたお話ししましょう。あっ、そうそう――――。」
思わずエルは立ち尽くしてしまう。そんなエルを見てゴッドステラは微笑み、他の入学生の元へと向かう。
エルが一人なのを見て、ノアがやってくる。
「どうかなされましたか? エルグランド様?」
「いや、大したことじゃない。」
(あの女、しっかり王族じゃねぇか。…どれが本当の姿だ? クク、退屈しなさそうで結構。)
望めばありとあらゆる事が叶いそうなあの少女さえも謀をするのだ。況や凡人ならなおさらである。
…そして父の手が王宮にまで届いていることも知れた。これはもはや手遅れかもしれない。
「エルグランド様、明日は暇ですか?」
「ああ、暇だが?」
「それは良かった。なら鷹狩でもしませんか? いい鷹が手に入ったんですよ。」
嬉しそうな顔で話すノアに興味が引かれる。実家では父の趣味ではなかったため、あまり触れることはなかったが、鷹狩は貴族の娯楽なのだ。
「ノアがいいと言うならやろうか。」
「決まりですね。本当はジムもいればよかったんですけど。」
「ま、あっちでもやれるだろ。」
「ですよね。ジムが落ちるなんて想像できないですもん。」
ノアと明日の約束をし、他にもいろいろと話しているうちに昼食会が終わって帰路に就く。懸念していたほどの面倒事は発生せず、それなりに順調だったと言っていいだろう。ただ気になるのはゴッドステラのセリフ。
『もし会うことがあればアイン様にお伝えください。借りは必ず返しますと。』
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