第13話 謁見
新入生とその保護者が玉座の間に連れてこられる。王が来る前にすでに全員跪いている。
(これも威厳を保つため、ってね。色々手が込んでるなぁ。よくやるよ、ほんと。)
待つことしばらく、演奏が流れてくる。
「パッパラパー」
その演出にエルは笑いそうになる。そこまでやるのか、そこまでしないと人を従えられないのか、それに意味はあるのか、と。
「国王陛下の御なーーりーー。」
「トットット」
軽い足音が静寂の空間に響き渡る。ついに来た。どんな面をしているのか、拝むのが楽しみだ。
演奏が止まる。国王が玉座に座ったのだろう。
「表を上げよ。」
それなりに威厳のこもった声を投げかけられる。だが、響かない。己の世界を揺らがせることすらできない。むしろこの程度なら逆に飲み込む自信がある。
「此度はよくぞ来た。諸君らは中立都市スペスのオルトゥス学院に入学する者と聞いている。」
聞いている、その言葉にエルは疑問を持つ。この決定に国王は関与していないのか?、と。もしそうであるとするならば、別の巨大な力が働いたということ。父の影がちらつく。
「そなたらはこのラーウス王国の代表となる。将来はこの国を背負って立つことになるだろう。その前哨戦として我が国の威信を示してこい! そなたならできると余は確信している。」
(おー、クライマックスかな。結構、演説慣れしてるねぇ、やっぱり。)
少し穿った見方をしてしまうのは、もうどうしようもないことなのだろう。どうしてもつまらなく感じてしまう。
「――以上をもって激励とする。では、一人ずつ名前を呼ばれたら学生証を取りに来るが良い。…エルグランド・フォン・ハーブルルクス。」
国王の心拍が僅かに乱れ、顔が僅かにだが険しくなる。この様子を見る限り、国王はハーブルルクスの躍進を快く思っていないのだろう。まぁ、一国の主なら当然の反応だ。秩序を破壊する者を歓迎できはしないだろう。しかも、相手は法律の範囲内で戦っている。ゆえに強引に止めづらい。強権を発動すれば、かの派閥の反発は避けられず、他の貴族も同調するかもしれない。それに悪い事ばかりでもないのだ。
「ハッ」
(…俺が一番最初か。ということは王国側もハーブルルクスが最も上だと認識しているということか。…これは使えそうだ。)
国王から金属のカードが渡される。これでもう王都には用はない。だが、国王に会えたのは大きな収穫だった。エルの評価としては――普通。人の上に立つにはふさわしくないように思える。
「しっかりと励むが良い。」
端的な言葉が告げられる。
その後も学生証が手渡されていくが、エルの時よりも訓示が長い。これはもう決定的だろう。
(あからさまだな。国王は反ハーブルルクスか。…だとしても、もうちょっと取り繕うべきだろうに。…間接的に気に入らないアピールをしているのか?)
国王が冷遇アピールをすれば、他の貴族も忖度して付き合いを蔑ろにすることを期待しているのかもしれない。が、もし本当にそう考えているなら甘すぎる。ハーブルルクスはここ十数年で巨大となった。無視しようにもできるはずがなく、どうあっても付き合っていかないといけないのだ。ならば、無視するというのは悪手中の悪手だろう。
(どうにも先が見えてないな、こいつ。ま、父上に喰われようと俺には関係ないがな。)
「さて、最後に紹介しておこう。諸君らと共にオルトゥス学院に行くことになる我が娘、ゴッドステラ・オブ・ラーウスだ。」
そして現れる神のような造形を持つ少女。これにはさしものエルでさえ目を見開く。
(…これは…確かにそこらの者とは違う。圧倒的輝きだ。ただ、同情しかないな。ここまで突き抜ければ、もはや自由なんて存在しないだろう。)
ゴッドステラという少女はあまりにも輝きすぎる。その光の前では誰もがひれ伏すしかないだろう。だからこそ――
(ハーブルルクスに対する切り札ってところか。同年齢の俺にこいつを宛がって、楔とする。…だがこいつらは大きな勘違いをしている。そもそも俺はハーブルルクスがどうなろうが知ったことではない。ゆえに、俺じゃストッパーにならない。俺なんかより、コークスの方がよっぽど効果的だろうに。…ま、邪魔になればあの男は家族でさえ始末するんだろうが。だってすでに優秀な
「皆様、どうぞよろしくお願いいたします。紹介にありました通り、私の名はゴッドステラ・オブ・ラーウスと申します。皆さまと共に学院へ行けること楽しみにしております。」
歌い上げるようなセリフにエルは危惧と警戒を覚える。なぜなら己でさえ少し吸い込まれそうになったのだから。ここ二年、自分の世界が揺らいだことは、ついぞ無かったというのに。この少女は容易く揺らしてきた。
(でもあくまで揺らいだだけ。この程度、軽度の地震とか変わらん。問題は――)
そっと周りの人物を見てみる。すると、思ったとおりほとんどの人間がゴッドステラを見つめている。呑まれていないのはアレクシア、アイリーン、ノア、宰相ぐらいだろう。ここで予想外だったのは父である国王ですら呑み込まれていたこと。
(おいおい、国王さんよ。あんたは呑み込まれたら駄目だろ。それでも国のトップか。)
一気にエルの中で国王の評価が下がる。本来なら一番泰然としなければならないのに、取り込まれてどうする。だが、凡夫なら取り込まれても仕方がないオーラがある。それほどにゴッドステラは仕上がっていた、まだ十二歳だというのに。
それで謁見は終了し、禁止エリアにさえ入らなければ昼食会まで自由にしてもよいことになった。
「エルグランドさまはどうされますか?」
保護者枠のエクスが尋ねてくる。
「そこらへんの部屋で待つさ。あと一刻ぐらいだろ? ならすぐだ。」
「かしこまりました。」
そしてエクスが少し距離を取る。エルは訝しく思うと同時に納得する。
「エルグランド様、どうです、中庭でも歩きませんか?」
子供は子供同士で交流を深めろということなのだろう。ただ、相手が同じ派閥のノアなので意味があるかと言えば疑問だが。
「…仕方ないな。エクス、ちょっと行ってくる。」
「はい。行ってらしゃいませ。」
どうやら付いてくる気はない様だ。王城まで護衛が付きっきりだと変な噂が流れてしまうかもしれないからだろう。それに王城で何かあれば王族の威信にかかわる。滅多なことはないはずだ。
エルはノアを伴い、中庭を散策する。見事な花々が辺りを彩っていたが、それでも記憶の花畑には勝てない。今となっては何も感じないが。
「それで何の用だ?」
「用とは?」
「何かないと、中庭まで来ないだろ。」
「別にそんなことはないんですけどね。」
ノアが肩を竦める。このエルグランドという少年と仲良くなりたいのは本心なのだ。そこに打算もちょびっとだけ含まれているというだけで。
「パピスビル家が工作しております。お気をつけを。」
パピスビル家。たしか屋敷に押しかけてきた家だったはず。また何か企んでいるのか。そろそろ本格的に潰した方がいいのか?
「…ふーん。ま、喧嘩を売ってきたなら潰すだけだ。」
エルの目に灰色が混じる。その雰囲気にノアは彼の父、アインを思い出す。あれが怪物と呼ばれるにふさわしい、初めて心の底からそう思った。
「そうですか。私が心配することの程ではありませんでしたね。」
このエルグランドという男も親に似たのか、底知れない雰囲気がある。仲よくしておいて損はないだろう。ただあのアイリーンという少女と第三王女ゴッドステラ、特にあのゴッドステラの方は警戒しておかなければならない。あれは毒薬にも劇薬にもなりうる。
エルはノアにも聞こえないほどの声でつぶやく。
「…ま、退屈しなさそうだ。」
(果たしてそれでハーブルルクスを止められるかな? もうすぐランデス兄上も帰ってくる。父上は徹底的に鍛えるだろう。完成したならあと半世紀は安泰だ。…くだらない。)
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