前夜
「失礼します」
東さんの作ってくれたクッキーを食べ終わり、椅子に座りながら、図書室で借りてきた本を読み始めた頃、コートを羽織った大人が、お家に訪ねてきた。
「ようこそお越しくださいました。私、この家の使用人の東です」
「旦那様からの依頼で参りました、顧問探偵の
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「では早速、例の手紙を見せて頂きましょうか」
「分かりました………どうぞお座り下さい」
「失礼」
「ワンっワンっ!」
「コラ!モフ、静かに!お客さんだよ。失礼しました」
「大丈夫ですよ。名前はモフって言うのかな?」
「そうです。もふもふしてて可愛いでしょ」
「そうだね。よーしよし」
「クーン」
モフも撫でられてて嬉しそうだ。
「失礼。こちらが例の手紙です」
「拝借しますね。…………………なるほど……この手紙に最初に気がついたのは、誰でしょうか?」
「まず、私がその手紙を発見しまして、雪絵様にお渡ししました。ですので、手紙を見つけたのは私。中を最初に見たのは雪絵様です」
「………雪絵ちゃんより先に、中身を開けた人は?」
「いないと思います。手紙は紙テープで貼られていましたので、剥がれていれば分かるはずですので」
「なるほど………。雪絵ちゃん。聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「なんですか?」
「雪絵ちゃんの大切なものってないかな?」
「大切なもの?……ちょっと待ってて」
私は、自分の部屋に急ぐ。このお兄さんにも私の宝物みせてあげよう!
「おまたせ!このドレスはね、お母さんが誕生日に買ってくれたの。可愛いでしょう?こっちはね、お父さんが買ってくれたぬいぐるみ、毎日一緒に寝てるの!それとねそれとね───」
そう言い、床にはたくさんのものが列を成す。だって、どれもお父さんとお母さんが買ってくれた宝物だもん。どれも大切だ。
「───あと、もちろんモフも大切だよ!」
「ワンっ!」
「そっかそっか!いっぱいあるんだね。……東さん、耳を」
「はい」
「この文面、雪絵ちゃんの命とも読み取れますが、旦那様はそこのところ分かっているのでしょうか」
「もちろんです。ですが、警察沙汰にして変なウワサが立ってしまえば不利益が生じる可能性があるとのことで。なので警備は旦那様が自ら手配して、厳重な警備を敷くとのことです」
「……なら安心ですね」
「ねーなにお話してたの?」
「雪絵様。お父様が明日には帰ってこられるとのこですよ」
「ほんと?!お母さんも?」
「お母様もです」
「やったー!!やったー!!」
お父さんとお母さんにあえる!嬉しすぎて、思わず踊り出しちゃったよー!でも止まれなーい!!
「ワンっ!ワンっ!」
「………大人びてるなーって思ってたけど、普通の小学生ですね」
「…………雪絵様はただの小学生ですよ」
「ゆきえー!大丈夫かー!」
「ゆきえちゃん!ただいまー!」
玄関が開いたと思ったら、開口一番、お父さんとお母さんの声が家中に響きわたった。
「帰ってきた!」
モフと一緒に玄関に向かって一目散に走り出す。
「ゆきえー!」
「ゆきえちゃん!」
「お父さん!お母さん!」
助走そのまま、2人の胸に飛び込んだ。
「久しぶりだなー元気にしてたか?」
「痛いところはない?」
「大丈夫!それよりね、話したいことがいっぱいあるの!」
「ああ。それはあっちでゆっくり聞くよ。よいしょっと」
そう言ってお父さんはわたしを抱き上げる。この景色を見るのもいつぶりだろうか。
「お久しぶりです。旦那様」
「明村さん。今回はありがとうございます」
「いえいえ、まだ何もしていませんよ。それより………」
「!じゃあ、ゆきえちゃんはお母さんとお部屋に行こっか」
「うん!」
わたしは、お母さんに連れられ、部屋へと急いだ。お部屋でたくさんお話するんだー。
「………ありがとうございます。それより、ほんとうに警察ではなくて私なんかでよろしいのでしょうか」
「もちろんです。明村さんのご活躍は聞いております。それに、警備の方は私の方で最先端の防犯システムを要し致しましたので、明村さんには念には念を。ということで呼ばせて頂きました」
「なるほど、そういうことですか。分かりました」
「はい。もちろん、報酬はお支払い致しますので」
「ありがとうございます。…………それにしても、ギリギリ、クリスマスイヴに間に合って良かったですね」
「そうですね。これで娘とクリスマスを過ごせそうです」
「予告時間まで残り10時間ほどです。気を引き締めていきましょう」
「はい!」
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