第2話 真名方涼のローゼンシア・プレシア留学、テオとの出会い
僕は東欧のローゼンシアとプレシアによく滞在していました。
まずは2015年、新楼高校2年生のときローゼンシアに3か月ほど語学留学をしました。
僕の初海外です。
ローゼンシアは国土的にも人口規模的にも大国とは言えませんが、経済的には豊かな国であり、争いの絶えない東欧地域の中では平和な国でもあります。
中世の古い街並みが残っている首都サラディヴァは人気観光地であり、中でもサラディヴァ大学の建物群は中世建築の傑作と評されています。
そのサラディヴァ大学の近くにある高校に留学しました。
短い期間の留学でしたが、ローゼンシアの気候や土地柄、人々の気質が自分の性に合っている気がしたのです。
なんとなく「心地よい土地だなぁ」と感じ、帰国するときにも「またここに来るんだろうなぁ」と思いました。
その予感の通り、3年後の2018年、新楼大学2年生のときに再びローゼンシアを訪れることになりました。
このときは1年間の留学でした。
サラディヴァ大学に留学し、ローゼンシアの土着信仰についての勉強・研究・調査に取り組みました。
留学期間中、僕は大学のサッカークラブに所属していました。
そのクラブで、テオという5歳上のプレシア人の男と仲良くなりました。
隣国プレシアからの留学生である彼は、大学生活の傍らジャーナリストとして活動していて、僕と同じように平日の夜や休日にクラブ活動に参加していました。
彼の母国であるプレシアは長年に渡る民族間対立や宗教間対立、それに起因する政治的対立に悩まされており、内戦や人道危機を何度も経験しています。
そのため、彼もかなりの苦労人のようでした。
同じ学生寮に住んでいたので、互いの部屋でよくテレビゲームをしたり議論したりしていました。
時には彼の取材に同行して遠出することもありました。
他にもたくさんの面白い友人がいて、ローゼンシアでの日々はとても充実していました。
そのため、帰国するときには後ろ髪を引かれるような思いがしました。
しかし翌年の2019年、ローゼンシアとプレシアを訪れる機会に恵まれました。
サラディヴァ大学でお世話になった教授から「プレシアでの調査研究に参加しないか?」とお誘いがあったのです。
先程言った通り、プレシアは政情が不安定な国なので正直怖かったですが、プレシア人であるテオの話を聴いてプレシアへの興味が高まっていましたし、(経由地としてですが)ローゼンシアの地をまた踏めますし、行かないという選択肢は僕の中にありませんでした。
ローゼンシアに降り立ってから3日間、調査研究に関する打ち合わせをしたり、準備をしたり、友達と会ったりしました。
残念ながらテオには会えませんでした。彼は別の国へ取材に行っていました。
そして、サラディヴァ国際空港から、プレシアの首都エルダールグラードにあるパヴォ・エルダール空港に飛びました。
空港から街に向かうタクシーの車中で窓の外を眺めていると、早速この国の現状に直面しました。
クラクションの音で騒がしいメインストリート、人々が集って活況を呈している市場などを目にしましたが、そのような日常風景の中に倒壊した建物や瓦礫、コンクリートが剥がれた路面など破壊の痕跡がありました。
とはいえ当時のプレシアは、2014年に内戦が停戦となって以降、小康状態が続いていて束の間の平和を享受していました。
僕たちは国の西部へと赴き、そこを拠点として調査研究を行うことになりました。
プレシア西部は隣国ローゼンシアと接している地域であり、かつての内戦時には国境を越えてローゼンシアへ出国・亡命しようとした人々が殺到した地域でもあります。
またプレシア西部は、隣国ローゼンシアの主要民族であるローゼンス人が多く住んでいる地域でもあります。
ちなみに、テオはこの地域出身のローゼンス人です。
この地域のローゼンス人たちの多くがプレシアからの分離独立を望んでいるそうで、ローゼンス人による分離独立闘争も頻繁に起こっていました。
僕たちはこの地域を拠点としてプレシアで2か月間過ごしました。
最初はなかなか現地の人々の輪に入れませんでしたが、現地の人々の食事会や礼拝に積極的に参加するなど「郷に入っては郷に従う」を徹底して現地に馴染む努力をしているうちに仲間として認めてもらえたのか、彼らと仲良くなることができ、調査研究にも積極的に協力してもらえるようになりました。
2か月という短い期間でしたが、ローゼンシアに続きプレシアにも愛着を抱くようになりました。
別れ際、現地の人たちは「また来いよ!待ってるからな!」と声をかけてくれました。このとき僕はまたここに来る予感がしました。
この予感はまたもや早く実現しました。
翌年の2020年。僕が早期卒業制度によって卒業し大学院に入った年。
この年に再びローゼンシアのサラディヴァ大学に留学することになり、おまけに調査研究のために再びプレシアへ渡航することになったのです。
しかも、友人のテオもこの調査研究に参加することになりました。
しかしご存じの通り、2020年、プレシアでは6年ぶりに内戦が再開されました。
第五次プレシア内戦。
この戦争の悲劇・惨劇は世界中の報道機関が連日連夜報道していたので、みなさんもある程度は知っていると思います。
そして、テオ。
僕は彼のことを「テオ」と呼んでいますが、みなさんにとって聞き馴染みがあるのは「テオドーロ・ブレーデン」(Theodolo Bleden)という名前でしょう。
ご存じの通り、テオドーロ・ブレーデンは第五次プレシア内戦において「HPO文書事件」を起こした男です。今や「英雄」と呼ばれるまでになった男です。
僕は、後に「HPO文書事件」を起こすことになるテオとともに第五次プレシア内戦に巻き込まれたのです。
まぁ‥‥でも‥‥あの内戦について語るのはよしておきましょう。
実際にこの身で戦争を体験したとはいえ、というか、だからこそ安易に発言しない方がいいでしょうし‥‥。しかも、まだあの内戦は終わってないことですし‥‥。
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