第3話:情報網

ユーニアが街を歩くと、ミナトミライがゆっくりと目を覚ます様子が感じられた。


高層ビルの窓には、まだ灯りがともっており、夜勤の人々が仕事を終えて家路につく姿が見えた。彼女はビルの影から影へと移動し、朝の空気を切り裂いて進んだ。


会う約束の場所は、古びたカフェの一角にあった。そのカフェは、この未来都市においても、昔ながらの雰囲気を保っている珍しい場所だ。


カフェの空気は、低忠実度のビートと情緒的なサンプルの重みで振動していた。それは、都会の喧騒から一歩引いた静謐な隠れ家のように、ユーニアに安らぎを与えた。


「遅かったわね。」ケイの声が、曲の終わりを告げる余韻の中でゆっくりと浮かび上がった。


「交通が少し混んでいた。」ユーニアは嘘をついた。実際には彼女が用意をするのに時間がかかりすぎただけだったが、その言い訳には、別の会話を始める前の一時的な沈黙を破る役割があった。


ケイは答えなかった。彼女は代わりに、手に持っていた電子端末をテーブルの上に置き、画面をユーニアに向けた。端末の画面は、アルデバラン星系の古代遺跡を示すホログラフィックな地図で満たされていた。地図は静かに回転し、失われた星の輝きがカフェの薄暗い光の中で微かに煌めいていた。


「古代の星について、新しいことが分かった。それはアルデバラン星系のこと。この情報は、おそらく君の探しているものにつながる。」


ユーニアは心臓の鼓動を感じながら、ケイから受け取る情報に集中した。アルデバラン星系は、彼女がこれまでに耳にしたことがある名称だった。古代の宇宙航海士たちは、その星系を「光の港」と呼んでいた。


「光の港って?」ユーニアは問いかけた。


「かつて多くの文明が交流した中心地。宇宙の図書館のようなもので、古代の知識が集積され、宇宙の真理が秘められているとも言われている。」とケイは続けた。


「どうやってその情報を得たの?」ユーニアは興味深げに尋ねた。


ケイは一瞬、ためらうように見えたが、すぐに口を開いた。「それは、ある放浪する図書館員から得たもの。彼は星々を渡り歩き、失われた文明の記録を集める仕事をしている。彼とは、情報取引を通じて時折連絡を取り合うの。」


ユーニアはその話に魅了された。放浪する図書館員という存在は、まるでファンタジーの書物から飛び出してきたような物語だった。彼女は自分がその物語の一部になることを望んだ。

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