第17話 とっておきの秘策を思いついた

 二度あることは三度ある。それが世のお約束。


 大聖堂の彫像落下事件以来、私はビクビクしながら毎日を過ごしていた。

 死亡フラグをへし折って、意気揚々と士官学園にやってきたというのに。


 アナザーストーリーにしては、モブに厳し過ぎやしませんか?

 このゲーム世界、おかしいって!

 せっかくダフネの支配から抜け出せたと思ったのに。

 このままじゃ、ナタリアちゃんのハッピーエンディングの前に事故死してしまうかも。



 ちっ。

 こうなったら、何がなんでも三度目を回避してやる。

 何かが起こる前に、いや起こったとしても一人で切り抜けてやる。



 そこで考えに考えて、考え抜いた末に出した結論が、三百六十度全方位センサーだ。

 ふっふっふー。



「大事なのはイメージ。ええと。あれだな。映画とかで、部屋の真ん中のケースに飾られている宝石を盗むシーンに出てくるような赤外線センサー。縦横無尽に張り巡らせるイメージ」


 私の体を中心に、縦横斜めに、絶対にかいくぐれないだろうという密度で赤い光線を思い描く。


「出来た! ちょっと試してみよう」



 朝、寮から講義棟へ行く道すがら、センサーの感度を試すことにした。

 一応、一班の三人と信頼できるマヌエル君とニコレッタ先輩は対象外にした。

 つまり、彼らが武器を持って私に近づいてセンサーに触れても、なんの音もしないところを想像しておいた。

 この先、授業で剣を交えることも多いだろうから念の為。


 こんなやり方で合っているのかどうかも含めてのテストだ。




 ちょうどいい感じでマッシュルームカットが歩いてきた。

 私が歩くスピードを落とすと、彼がどんどん近づいて来て、とうとう私のセンサーに触れた。


 ウォン! ウォン! ウォン! ウォン!


 ついついパトランプが回っているところまで想像していたものだから、頭の中がどえらいことになってしまった。

 いったん停止! 落ちついて!

 


 まず、感知音がうるさ過ぎるということがわかった。あと、警報っぽい音も不快だわ。

 よし。何かがセンサーに触れた時の音は、大好きなアーティストの曲にしよう。


 それから、感知すべき対象だ。

 こんな風になんでもかんでも感知していたら、日常生活が送れなくなる。

 かといって、対象を絞り過ぎると危険を見逃してしまうかもしれない。



 うーん。こういう難しいことを考えるのが得意な知的キャラに助けてほしいところだけど。

 まあモブの私にだって脳みそはあるもの。


 えーと。そもそものところから考えてみよう。なんでこんなことをしているかというと。



 ――死に至るような事件・事故からこの身を守るため。



 だったら、感知対象を、「私の命を危険に晒すおそれがあるもの」にしちゃえばいいんじゃない?


 私の思いが具現化するんだから、そう定義づければ、そうなるはず!



 じゃあ早速。

 私の体から五百メートル四方にセンサーをどーんと張る。


 「準備よし。感知開始!」などと、心の中でつぶやく。


 想像の中の私は、赤い光線が幾重にも張り巡らされた世界の中心にいる。

 ちょっと頭がおかしくなりそうなので、「透明化」と念じる。


 ――赤い線が消えた。



 いつの間にか立ち止まっていた私のすぐ横を、何人もの生徒が通り過ぎていく。明らかにセンサーに触れながら。

 ……無音だ。

 


 すごい! すごい!


 型通りの魔法しか使わないゲーム世界の住人と違って、私は、持ち前の想像力で新しいへんてこりんな魔法を編み出している!



 その場で飛び跳ねている私は、周囲から奇異な目で見られていたらしい。

 タタタッとナタリアちゃんが駆け寄ってきて、私の腕を掴んで足早に歩き出した。

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