第2話 ちなみに魔法って、どうやって使うんだっけ?

 この世界で生きていくしかないのなら、とことん生き抜いてやろうじゃないの!

 幸い、私にはアドバンテージがある。

 最終回まで見ていなくても、おおまかなキャラやストーリーの流れは覚えている。


 それに、私にはがある。

 ゲームの筋書き通りに進まなきゃいいのだ。



 よしっ。

 まずは、死亡回避。それから、実家の財政改革かな。




 二日過ごしてわかったけど、ウルビーノ男爵家我が家は相当な財政難らしい。

 この世界の貴族の家の普通がわからないけれど、感覚的に使用人が少ないと思う。


 男性の料理人が一名。屋敷内の掃除や洗濯といった家事諸々を担当するメイドのような女性が二名。

 馬の世話や庭の手入れを担当する下男が一名。

 ――以上。


 まあでも。前世のことを思えば、使用人がいるってだけで十分すごい。ちょー楽!


 両親は二人ともおっとりしていたから、世知辛い世の中を渡っていくのが下手なのかも。

 それでも生活の面倒を見てもらっているからには、恩返しをしなきゃね。


 まず私が晴れて生き延びることが確定したら親孝行するから待ってて!





 使用人が少ないというのは利点もある。

 私にあれこれ指示する人がいない分(例えば家庭教師が「勉強しろ」とか)、今みたいに部屋に閉じこもっていても自由に過ごせる。


 色々考えた結果、まずは、この世界のことをちゃんと知ろうと思う。何せ、ながら視聴だったもので。

 ポータブルゲーム機でアクションRPGをやりながら見ていたんだよね。


 まあ情報収集といっても、収集先はしれているけれど。





「お姉様。入ってもよろしいですか?」


 そ。妹のジーナちゃん。十二歳だけど、めちゃくちゃしっかりしているから頼りになる。


「どうぞ」



 満面の笑みで部屋に入ってきたジーナちゃんは、ベッドの上で膝を抱えていた私を見ると、表情を曇らせた。

 ああいっけない。考え込んでいたから心配させちゃった。


「お姉様?」

「あ、心配しないで。またちょっと記憶がこんがらがっちゃって」

「私にわかることでしたら何でも聞いてくださいませ」


「あはは。笑わないで聞いてくれる?」

「もちろんです」



 実は、一つ気になることがあるんだよね。

 この世界って、まあ、ありがちな設定なんだけど、貴族は魔法が使える。

 ――ってことは、私も使えるってことなんだけど。

 何をどうすればいいのかがわかんない。



「あのね。魔法のことなんだけど」

「魔法――ですか」


 あれ? あれれ?

 今、すごく慎重に答えようって構えなかった?

 

「うん。私って、どれくらい魔法を使っていたか、覚えている?」

「――はい」


 ええっ! 何、その反応?

 そんなに言いづらいことなの?


「どんな感じだった?」

「あ。その。実際にお姉様が魔法を使われるところは見たことがないので。でも。その――」

「うんうん」


 にっこり微笑んで先を促すけど、ジーナちゃんは、あんまり言いたくないみたい。


「九歳の時の魔力判定で――」


 ほう? そんなことするんだ。


「あ。そう言えば判定したっけ。うーん。思い出せないなー。ジーナちゃんは覚えてる?」

「は、はい。私はBプラスでした」


 じゃなくて。わ、た、し、の、は?


「すごいね。あとちょっとでAってことじゃない」

「はい。でも、そのあとちょっとが難しくて」

「もう。謙遜なんかしちゃって。子どもは『どうだ! すごいでしょっ!』て、素直に威張ればいいのよ。それで……。ええと……。私の結果も知っているよね?」


 え? やだ。うつむかないで。「それを私の口から言わせるのですか?」って、顔に書いてあるんだけど。

 でも知っておかなくっちゃね。ここは心を鬼にして聞く。


 うんうんとうなずきながら、我慢強くジーナちゃんの答えを待つ。


「えっと。その。確かC――」

「C!」


 ガーン! さすがモブ。魔力も少ないんだね。


 もごもごと口を動かしていたジーナちゃんが、残りを吐き出した。


「――マイナス」

「へ?」


 Cマイナス? 劇ヤバじゃん。

 うへっ。

 それってもう、「魔力なし。役立たず」っていう認定だよね。


「あ、あの。でも、魔力は成長と共に増加すると言われていますから。お姉様も、今はきっと増大されていると思います」


 本当に?


「あ、あのね。それでね。まだちょーっと、魔法の使い方を思い出せないんだけど」

「ええっ! た、大変ですっ! お父様に、今すぐお父様に――」

「い、いやいや。ちょっとだけコツを教えてもらえれば、すぐに思い出せると思うんだよね。ね? 内緒でちょっとだけ教えてくれない?」


 「え?」と言うジーナちゃんの青い瞳を覗き込むと、心が揺れているのがわかる。


「で、でも――」

「ね? お願い!」

「は、はい」






 ――ということで。気が進まない様子のジーナちゃんをなだめすかして、森にやって来た。


 この森は屋敷街のはずれにある小さな森で、幼い子どもらが、最初に魔法の練習をするところだという。


 つまり、子ども御用達の練習場なので、中等部へ上がるジーナちゃんでも、ここに来るのは恥ずかしいらしい。

 それでも私のために我慢してくれている。

 もー。なんていじらしいの!



「お姉様。最初に私が教わったコツですが、魔法はイメージが全てだそうです。何をするために、どんな形の魔法を発動するのか、細かなところまでイメージすればするほど、上手にできるそうなのです」


 ほうほう。イメージね。イメージか。うんうん。


「ええと。では、私がやってみますね。あの木の幹に風の塊をぶつけるところをイメージしてみますね」


 お! ジーナちゃん。頑張れー!


 ジーナちゃんは、真剣な表情で大木を見つめ、スーッと息を吸うと、何かもごもごとつぶやいて、「えいっ」と両手を前に突き出した。

 すると、シュルッと空気を擦るような音がして、大木の幹にドンと何かがぶつかった。

 よく見ると、鉄球でもぶつかったのかというような窪みができている。

 

「す、すごーい!」

「そんな。ごく初歩の魔法ですから」


 また謙遜している!


「お姉様もどうぞ。やってみれば、案外、体が覚えているかもしれません」

「確かに! 体が覚えているかも、だわ」


 言えてる。この体が覚えてくれているかもしれない。

 ええと。イメージね。風の塊をイメージね。


 私が大木を見つめて風をイメージしていると、ジーナちゃんが、「体を巡る魔力を感じてください」と応援してくれた。


 おうおう。わかる。なんか熱い。これが魔力?

 この熱いのを風に変換するってこと?

 えーと。えーと。


 

 ええっ?! どうやんの?


「風。風か。塊にする? うーん?」


 考えるのとイメージするのとは違うことだったみたいで、私は魔法を発動することが出来ないまま、唸りながらドテンと地面に突っ伏してしまった。

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