第13話  押してだめなら押し倒す!

「ちょっと離れて!」


彼は顔を真赤にして立とうとする。


「いやだ!」


私は感動の再開に酔っていた。

それでもようやく立ち上がった彼に諦めて腰を上げる。


「それで返事はイエスなの?おっけいなの?」


「それどっちも同じだよ」


ちえ、バレたか


「とにかく一度教室にいかないと」


「そうだった」


もうクラスは分かってるけどね


「あったー同じクラスよ!一年間よろしくね!!」


「う、うんよろしく」


明らかにやりすぎた。

彼ドン引きしてるようだった。


でもね、

ここで引いたらいかんのです


「押してもだめなら押し倒せよ!」


「うわああああ」


ふふふ。  悠大好き



そして騒ぎを聞きつけた教師に私は捕らえられた。


おかしい


こんなイベントはなかったはずなのに

私は彼が居たことで自分の性格が普段とは違った反応をしていることに気がついていた。


これもなにか仕組まれたことなのか


「自重しなくっちゃ」


生徒指導室に1時間以上説教を食らい、私は徐々に自分を取り戻しつつあった。


「なんであんなことしちゃったんだろう」


普段の自分では絶対にやらないことばかりだ。


「ひょっとして誰かに操作されている」


私がこの世界にいる事により、本来の自分の心が封印されていたとしたら。


今のこのあたしはいったい誰なんだろう


怖いよ 悠さん


私は今はいなくなった友人を思い浮かべて泣いた。


私どうしちゃったんだろう




「どうもすみませんでした」


私は連絡を受けて迎えに来た母さんに引き取られた。


「そんなに積極的な子だったかしらね」


お店を早上がりして迎えに来てくれた母さん。

私の記憶の母さんよりも若くて美人だった。


同じ世界て事じゃないよね、


やっぱり


私の世界は一度終わったんだ。



自宅に帰った時、丁度帰宅した悠くんのお母さんと会った。

真っ赤なロードスターを見て、「もしかしたら私のこと覚えているかも」そんな期待を持ったけど


「あら、おかえりなさい。今日は早いのね」


「はい」


私たちは軽く会釈をして、玄関に向かって歩く。

莉佳子さん私のこと覚えていなかった。


当たり前だ。あの人格はきっと娘が居たから形成されたものだ。

男の子の悠がいる世界では現れることはないだろう。


でも


「あの!」


「ん、なあに」


ドアを開けて玄関へと入る莉佳子さんを呼び止めてしまった。

お母さんは怪訝そうな顔をしている。


莉佳子さんも同じだ。

中学に入って接点らしい接点はなかったのだ。


「悠くん帰ってきていますか」


「多分まだだと思うわ。買い物があるって連絡きてたから」


なにか言わなきゃ、なんでもいい


何かある?


そうだ!


「今度お料理一緒にしませんか」


何言ってるんだろう私は。 

悠は料理が得意だった。

私の出番なんて無いのに。


「あらそう。助かるわ。悠ったら中学に入ってからちっとも手伝ってくれないのよ」


えっ


「そ、そうなんですね。私オムライスとか得意なんですよ」


「あらあら。じゃあうちのお嫁さんに来る?」


微かな残滓


「えー私なんかでいいんですか?」


今はそれにすがりたい


「ふふふ。娘と一緒に料理するのが夢だったのよ。なんせあの子はぶきっちょだからってあれ」


莉佳子さんは困惑してた。

悠はお料理が得意だ。ぶきっちょの筈など無い。


「なんだかいつも誰か料理やりたがっていた気がするけど」


確かに残っている。


「寂しい思いさせてように」


「悠って不器用ですよね!危なっかしいです」


「そうなのよね」


見つけたよ 悠さん


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