第27話 恋なんかじゃない



 部屋に戻った私は一人、枕に顔をうずめていた。


『それは──。……花を飾るように言い出したのはフロウ王子です。王子の側近であるルビウスがそれを僕たちに手渡しました』


 直接的な言葉はなかったけれど、フロウ王子説、濃厚ね……。

 全員が死んだあと、ただ一人立ち上がった夫。


 あとはセイシスの調査報告を待つだけ。


 コンコンコン──「リザ、セイシスだ」

「!! どうぞ」


 丁度セイシスのことを考えていたところで尋ねてきた声に、私はすぐに入室の許可を出した。

 何かをつかんでくれていたならいいけれど……。


「セイシス、どうだった?」

「あぁ、まぁ……俺も疑問はあるがひとまず置いといて……。結論から言うと、フロウ王子はフローリアンの王位継承権をめぐって父親であるフローリアン国王と口論を繰り返していたようだな」

「!! く、詳しく聞かせて!!」

「わぁっ!? っと……お前なぁ……」


 私は早く続きが聞きたくてセイシスを引っ掴むと、無理矢理ソファへと座らせ自分も隣を陣取った。


「はぁ……まぁいい。自分が次期国王になって、フローリアンのために尽くしたいという思いを、国王に伝えていたみたいだな。まぁ一蹴されて終わったようだが……。あとはフロウ王子はフローリアンの実情に胸を痛めているようだな。このままでは国は滅びると。それと、こうも話していたようだ。『近く、国民の反乱が起きるかもしれない』と」


「反乱!?」

 飛び出した物騒な言葉に思わず声を上げる。


「あぁ。貿易制限をしているフローリアンは、不作の年は国民の生活が厳しくなる。不満は噴出しているが、国王は聞く耳を持たない。今はまだ数年に一度の不作でも、それが続けば──フローリアンは大飢饉に見舞われるだろう。フロウ王子はそれを憂いているようだな」


 今からすでにその片鱗が……。

 フロウ王子はこの段階で気づいていたのね。

 自分の国の行く末を──。


「だから王位という権力が必要、か」


 自国で駄目なら大国であるこのラブリエラ王国がある。

 しかも跡継ぎはたった一人の小娘のみ。


 一回目、フローリアンは崩壊した。

 その後管理することになったのは──このラブリエラ王国だった。


 じゃぁフロウ王子は、自分の手でフローリアンを再興するために私を?


 絡まっていたはずの頭の中の意図が次々とほどけていく。

 詰まっていたそれはあるべき姿を取り戻すことで、どんどんクリアになって、私は肩をふっと下した。


 もうすぐまたフロウ王子はこの国に来る。

 私の誕生パーティに……。


 でも、諸々の証拠がないと何もできない。

 梯子を壊し、花を細工しただけだもの……。

 何か証拠と、そして明確な出来事がないと……。

 将来、あなたは私を殺すので捕まえます、ではいけない。

 それこそ国際問題だ。


 ただの言いがかりとされてしまってはいけない。

 何か……あれ? 花……そういえばお父様の庭も──フローリア……産……。


「……セイシス」

「何だ?」

「もし……、もし私が親子の縁を切られたとしても、あなた、私についてきてくれる?」

「は?」


 私の突拍子もない問いかけに、セイシスが眉を顰める。


「いや、何があるかは知らんが、陛下がお前との縁を切るとか──」

「可能性の話よ」


 だって私がしようとしているのは、もし間違いだった場合、父を悲しませるだけのことだもの。

 縁を切られないにしても、遺恨が残ってしまうなら、私は私の身代わりを立てて城を出るだろう。


「……」

「……」

「……はぁー……。何て顔してんだよ」

 ため息とともに、私の頭にずっしりと重力がかかり、がしがしと乱暴に撫でられる。


「ちょ、ちょっとセイシ──」

「どこまでも、一緒についてってやるよ。トンデモ姫」

「!! っ……ありがと……」


 あんなにセイシスに怒っていたのに。

 それが鎮められていく。


 やっぱりセイシスはずるい。

 私はきっとセイシスなしで駄目なんだろう。

 そう再認識する。


「あなたは……あなただけは──」

「ん?」

「……何でもない」


 私の傍にいて。

 口から出かかったそれをすんでのところで飲み込んだ。


 だってそれじゃまるで──。


 私がセイシスを、好きだと言っているようなものだ。


 そう気づいてしまったから──。

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