第14話 美しい貴方に優美な眠りを

「今夜はフロウ王子の来国を歓迎して、フローリアンの食用花を使った料理を作らせています。皆様、お召し上がりくださいませ」


 体調のすぐれない父に代わって王妃であるお母様が晩餐を取り仕切る。

 普段は執務室にこもって書類とにらめっこしている母も、こういう時はしっかりと父の代役を務めるのだから、やっぱり幼い頃からの王妃教育ってすごいと実感させられる。

 一回目ではすでに母はいなかったから、こういう姿を見ることができるのも新鮮だわ。


 純白のクロスが敷かれた長いテーブルには、母、私、フロウ王子、そして筆頭公爵家であるマクラーゲン公爵家のアルテスが出席している。


 本来なら当主か、嫡男であるセイシスが出席するのが筋ではあるけれど、セイシスは私の後ろに控えて護衛をしているし、公爵と夫人は領地の視察からこちらに帰ってくる途中、道に大木が倒れて通せんぼされてしまって間に合わなかったみたいだ。

 にしても、何で大木?


「ありがとうございます、王妃様。料理、とてもおいしいです。実は、我が国の花を使うと国で知らされてから、ずっと楽しみにしていました。こんなにおいしい料理に仕上げてくださって……。料理長によろしくお伝えください」


 嬉しそうにほほ笑むフロウ王子に、母も笑顔でうなずく。

 和やかな空気の中、色とりどりの花に彩られた美しい料理が次々と運ばれ、私たちは会話と料理を楽しむ。


「フローリアンの花はどれも色鮮やかなうえに香りも嫌味が無くて素晴らしいですね。マクラーゲン公爵家でも花を育てたいと思っているのですが、やはりフローリアンの花を取り寄せたいところですね」

「そんな風に言っていただけて、嬉しい限りです。何かわからないことでもありましたら、遠慮なくおっしゃってください」


 アルテスの言葉に、フロウ王子がナイフとフォークを置いて食いついた。

 フロウ王子はやっぱりフローリアンが、フローリアンの花が大好きなのね。

 フローリアンのことを語るフロウ王子はとても活き活きしているし、輝いて見えるもの。


「ぜひ!! ぜひこの後おすすめのお花について教えてください!!」

「え、こ、この後、ですか?」

「はい!! この!! あと!! すぐに!!」


 め、珍しいわね。アルテスがこんなに図々しく食い下がるの。

 そんなにお花に興味が出たのかしら?


「フローリアンについて、ぜひご教授いただけませんか?」

「わ、わかりました。そんなに言ってくださるのなら、少しだけ」

「わぁ!! ありがとうございます!! 嬉しいです!!」


 アルテスの謎の圧に負けたフロウ王子が引き気味に了承すると、アルテスはいつもの子犬のような笑顔で礼を言った。

 その後からもアルテスとフロウ王子は何かと二人で花について語り合って、私たちは二人の様子を微笑ましく見守りながら食事を楽しんだ。


 大人しそうなフロウ王子にはアルテスみたいな子犬系コミュ力高男が意外と合うのかもしれないわね。

 フロウ王子もアルテスに、自国の花のことを楽しそうに語っているし。

 なんにしても、仲が良いに越したことはないわね。


 ***


「うわぁ……」

「これは……」


 フロウ王子との晩餐を終え自室に戻ってきた私を待ち構えていたのは、ベッド周りに飾り付けられた色とりどりの豪華絢爛な花々。

 そしてベッドの上には一枚のメッセージカード。


「なになに? 【美しい貴方に優美な眠りを】」

「……」

「……ここで寝ろと?」


 一人で?

 恋人と眠るにはロマンチックで雰囲気出ていいかもしれないけど、一人寝にこんなロマンチックな演出いらない……!!


「せ、セイシス、一緒に──」

「あほか。寝んからな」

「ですよねー……」


 花に囲まれて一人で寝るとか何この罰ゲーム。

 むせ返るような花の香りとさっき食べた食用花を使った料理のフルコースが体内で混ざり合って気持ち悪い。

 食べ過ぎたかしら……。


「今夜はフロル王子の歓迎の晩餐だからレイゼルとの閨授業はないし、ゆっくり寝ろよ」

「えぇ、そうするわ」


 自分の部屋じゃないみたいで落ち着かないんだけど……ゆっくり、眠れるかしら?



 ***



 ゆっくりとお風呂に使ってネグリジェに着替えて寝室に戻ると、やっぱり迎えてくれたのはベッド周りの主張強めの花々。


 あぁ、せっかく収まりかけた花の匂い酔いが再び……。

「あ、あれ?」

 違う、酔い、じゃない。

 これ、なに?

「っ、熱い……っ」


 身体の奥からこみ上げてくる熱。

 落ち着きたいのに乱れる呼吸。

「せい……しすっ……」

 私は疼く身体を抱きしめながら、ベッド脇にあるセイシス直通で音声が繋がる魔石に手をかざす。


「セイシスっ、私、へん、なのっ……。すぐ、来てっ……」

 それだけ伝えるのが、精いっぱいだった。












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