第4話 恋愛への恐怖心
「よっしゃぁぁああ!! カイン王子フラグへし折ったわよぉぉおおおお!!」
「……大丈夫か、お前……」
私の雄たけびが執務室に響いて、セイシスの呆れ声が続く。
これが叫ばずにいられようか。
あんな心酔しきった状態のカイン王子を、婚約者候補としてではなく貿易パートナーという位置に持ってくることができたんだもの。
大きな一歩だわ!!
「これで結婚は一つ遠退いたわ!! 私はまだ生きていられる……!! これが喜ばずにいられる!? セイシス!!」
「いや、だからお前、結婚は戦争じゃないからな? 何勘違いして──」
「いいえ!! 私にとっては結婚は破滅への第一歩よ!! いえ、むしろ破滅への階段の最後の一段かもしれないわ!! あの候補者達との結婚は、何としてでも阻止しなくては……!!」
「お前、一体何の影響でそんな思考に陥ってんだよ……」
もちろん一回目の人生です!!
だなんて、口が裂けても言えない。
言えばきっと、頭がおかしな奴だと思われて私の扱いが今より更に雑になる……!!
私は一応、王女なのだ。
そう、一応。
これ以上この男に舐められてたまるもんですか。
「第一、俺のところならともかく、お前のところは理想的な夫婦だろう? あんな夫婦になりたいとか、憧れないわけ?」
憧れ、ねぇ。
憧れがないわけではない。
だって、娘の私から見ても仲の良いお父様とお母様は理想的な夫婦だと思うもの。
いつかあんなふうに、愛し愛される結婚をしてみたい。
そんな風に思わなかったわけではない。
それでも一回目の人生のあの地獄絵図が、私の憧れを引き裂くのだ。
胸を貫く5つのナイフ。
熱を帯びた痛み。
狂ったような夫たちの目。
そして死んでから見た、夫たちの無残な自死。
皆、私の名を呼びながら、私を刺したそのナイフで、自分の頸動脈を切っていった。
私を愛したがゆえに狂ってしまった運命。
私を愛したがゆえに苦しめてしまった心。
皆、最初は私を純粋に好きになっただけの、ただの男だったはずなのに。
「愛は、重なれば重なるほど、どこかで縺れておかしくなってしまうもの」
私は、誰かがそうなるのも、自分がそうなるのも怖い。
もちろん全員ではないだろう。
お父様やお母様みたいに、幼い頃からお互いだけをずっと思いあって結婚して、結婚してからも変わらない人たちもいると思う。
でも、それはお互いに信じあっているからこそだ。
愛だけに重きを置いてしまえば、いずれ前世のように縺れてどろどろと沼に沈んでしまう。
私がそうならない保証は、ない。
「お前…………。……人生二回目みたいに枯れてるな」
「なっ!? 失礼ね!! 枯れてはないわよ!!」
人生二回目は否定しないけど!!
「愛ってさ、もしも重ねて縺れたとしても、二人で解決して、もっと強い愛にしていくもんなんじゃないの?」
珍しく真剣な表情でセイシスが私を見る。
セイシスがここまで真面目に愛を語るなんて……。
もしかして……。
「セイシス、あなた──」
「……リザ、俺──」
「──恋愛小説にでもハマってるの?」
「…………は?」
セイシスは昔から本を読むのが好きだから、今度はきっと恋愛小説にでもハマったのね。
昔はよく私に本を読んでくれたり、本のような冒険がしたいとかでよく城内を二人で探検したのよね。
「ふふ、セイシスってば、一人で大人になっちゃったように思ってたけど、恋愛小説に入り込むだなんて、まだまだ子どもなところがあるのね」
なんだか安心したわ。
セイシスはいつも私を子ども扱いするんだもの。
私だって大人だっていうのに!!
「お前なぁ……。……はぁ……。まぁいい。候補者はまだあと3人いるんだ。せいぜい頑張れよ。あぁでも、陛下の身体のこともあるんだ。そこから目だけは背けるなよ?」
「わかってるわよ」
そう。
私が唯一の王位継承者なんだ。
ちゃんと結婚相手を決めなくちゃいけないのはわかってる。
探さなきゃ。
一度目の人生において、私とそういう関係になっていない人間で、ちゃんと求婚の言葉を私が聞くことができる人を。
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