第38話 せっかくのチャンスを逃した(ともみ編)

 余計な一言のせいで、好きな人と過ごせる時間をふいにする。後味の悪い終わり方に、次はないのかなと不安になった。


 ともみは謝罪のラインを送る。


「今日は調子に乗りました。本当に失礼しました」


 隆三からのラインは、すぐに返ってこなかった。一秒、一秒と不安は増すことになった。


 ともみの部屋に、母親が入ってきた。髪が乾ききっていないことから、ゲリラ豪雨の被害に遭っている。


「ともみちゃん、表情が冴えないわね。どうかしたの?」 


 ともみは心配させないために、元気を取り繕った。


「おかあさん、私は元気だよ」


「それならいいけど・・・・・・。洗濯物が濡れてしまったから、もう一度洗うことにしたの。洗濯が終わったら、干してくれない」


 あれだけのゲリラ豪雨なら、適切に対応するのは極めて難しい。


「わかった。そのときは呼んでね」


「ともみちゃん、好きな人とはうまくいっているの?」


 母に好きな人の存在は隠していたはず。どんなきっかけで、気づかれてしまったのだろうか。

 

「おかあさん、どうしてそれを・・・・・・」


「女性は好きな人ができたとき、メスになる生き物なの。自分では気づいていなくても、周りからすればすぐにわかるよ」


「そうなんだ・・・・・・」


「恋愛に失敗はつきものだけど、好きな人といられるのは最高に幸せ。ちょっとくらい迷惑をかけても、ぐいぐいといったほうがいいよ」


「おかあさん・・・・・・」


「私は本気で好きだった人と、会話するチャンスすらあまりなかった。それをできていることを、ポジティブにとらえていこう」 


 母の言葉で、少しだけ元気をもらえた。相手に完全にそっぽ向かれるまでは、必死にアピールをしていきたい。

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