第17話

「呂布殿」

「何?」

と俺は訊いた。

「曹操軍を敗走させましたが、董卓将軍の配下となってますがよろしいのですか?」

その問い掛けに俺は笑いながら答えた。

「勝てばいいんだろ?俺達が勝ってしまえば董卓軍の武将なんて関係ないからな」

そんな俺の言葉に李信も笑い出すのであった。

俺は李儒の元に行くと楊奉について訊ねる事にしてみたのだ。

「確かに優秀な将軍です。しかも黄巾党討伐を成就した者達にとっては天敵とも言えるでしょう」

「いや、俺には李儒殿が天敵の様に見えるんですが?」

俺のそんな質問に笑みを浮かべて答える。

「呂布殿もですか?」

「え?」

俺は予想外の反応に驚いてしまう。

「では、私の何をもって天敵と感じたのですか?」

そう聞かれてしまうと答えるしかなかった。

「いや……李儒殿の策は計算されつくされた上で行われたものが多いので、短時間で全てを理解出来ないと勝てないと思っていたんだが?」

そんな俺の言葉に李儒は笑顔で答えた。

「今回の戦に対して私が考えていた事など呂布将軍が董卓将軍の配下になったと言う事だけでした。ですので、その董卓軍の弱体化を図ろうと思いまして」

そんな李儒の言葉に俺は更なる興味が湧いてくるのであった。

「それは何故?」

俺が更に質問をすると李儒は口元を歪めた様な笑みを浮かべて言ったのだ。

「今回の黄巾党の討伐で一番手柄をあげたのが誰かご存じですか?曹操なのですよ」

そんな李儒の言葉に俺はようやく納得出来たのだ。

「なるほどね、だが……曹操に恨みを持つ李儒殿が何故曹操を助けたのだ?」

そんな俺に対して李儒は苦笑いを浮かべながら言ったのだ。

「曹操への恨み?それはお門違いですよ、私は曹操と面識があるだけでそれ以上の付き合いはありませんから」

そんな李儒を不思議に思いながらも俺は頷くと城を出る事にしたのだった。

目の前に広がる黄巾党の兵士達が叫びながら突撃してくる様子を見て俺は、今回の戦いの勝利を確信したのである。

俺は関羽と張飛を引き連れて敵軍の正面に降り立つと大声で言った。

「董卓の配下の武将である呂布奉先だ!だが……今ここでお前達に勝てる様な武将はここにはいないと思え!」

その言葉を聞いた敵兵達は驚き戸惑っている様子であったが、ある一定の距離まで近付くと止まり呂布と張飛へ敵意を向けてくる。

俺はその姿を興味深く見ていたが、そんな姿を見て不思議に思ったのか関羽が話しかけてきたのである。

「あの者どもは何か誤解しておるのか?」

俺は軽く首を横に振ると関羽に言った。

「関羽も張飛もどうやったらアイツらに俺達を倒せると思った?」

そんな俺の問い掛けに対して、張飛は嬉々として答える。

「そりゃあ正面からぶつかり合って全力で戦ってしまえば俺達の勝ちだろ」

そんな張飛の言葉に関羽が続く。

「我等は個人でも十分に強いと言う事を見せつけてやれば容易いことだ」

その答えを聞いて俺は頷いてから言った。

「そう言う事だ!」

俺の返答に対して関羽も張飛も首を傾げるのであった。

俺達は全軍に突撃命令を出すと弓兵に火矢を放たせ敵軍の近くまで攻め入る。そして、遂にその射程距離に入ると一斉に弓矢を放つと雨の様に矢が降り注ぐ。

それにより敵兵達は次々と倒れていき、その場に生き残った者は悲鳴を上げて逃げ出したのだが……その瞬間から炎の壁に囲まれる事になった。

そんな状況を見ながら俺は兵達に叫ぶように命令を下す。

「今、逃げ出すと火に焼かれて死ぬぞ!」

俺のその発言に自軍の兵士から動揺や混乱していた声が聞こえなくなった。

その様子を見ていた俺は気を良くして再び号令をかけた。

「突撃せよ!ただし弓の届く距離では動くな」

そんな俺の命令を聞いた関羽と張飛が笑い出したのだ。

「まさか、こんな単純な事で我らを騙せると考えていたとはな……」

その言葉を口にした張飛は戟を振るうと敵軍へ突っ込んで行き敵兵を吹き飛ばす。

関羽は剣を振るうと目の前にいた兵士を次々に倒していった。

そんな2人の様子を見ていた俺は笑みを浮かべると更に兵達に指示を出した。

「予定通り、弓矢で援護しながら前へ進め!」

その言葉を聞いた兵士達も動揺することなく指示に従い前へ進む。

暫くすると俺の目の前で両軍の兵士が衝突するようになっていたのである。

その様子を黙って見ていた張飛が口を開いた。

「あれは呂布殿じゃないな?あそこにいるのは誰だ?」

そんな張飛の言葉に俺は視線を向けると、そこには俺の知らない武将が馬を巧みに操りながら敵兵達を斬り倒していた。

そして……この乱戦の最中で一度も止まる事なく馬を走らせている姿を見ていると徐々に距離が近付き張飛が叫ぶように教えてくれたのである。

「あれは董卓軍の呂布奉先だ!後ろには李儒もいるぞ」

その言葉を聞いた関羽も槍を構えて叫んだのであった。

「皆の者、呂布を討ち取れ!それなくして董卓は倒せんぞ!」

その言葉が合図になったように戦場全体が歓声に包まれた。それはこの黄巾党の乱は終結した事を告げる合図であったのかもしれない。

そんな中、敵の武将を斬り倒しながら呂布と李儒の元へ近付いていた関羽と張飛であったが、突然呂布達が走りだしそのまま魏続の元へ向かったのであった。

その後を追おうとした2人であったが……まだ黄巾党の兵達が遠巻きに俺達を見ていたのだ。

「深追いはするな、まずは乱戦を終わらせるぞ!」

そんな俺の命令を聞いた2人は頷くと向かってくる敵に対し攻撃を始めるのであった。

董卓陣営と合流した呂布は魏続に問い掛ける。

「お前の言う通りにして良かったのか?」

その言葉に魏続は答えた。

「あれはあくまでもあの場にいた兵士を遠ざけただけに過ぎません。まだ袁紹も張楊も残っているので戦いが終わった訳ではありませんよ」

「袁紹も?」

そんな魏続の返答に呂布は意外な答えに驚き聞き返す。

「ええ、今回の戦いが終われば自ずと彼等は自分の判断で動くでしょう」

そんな魏続の態度に関羽が笑いながら問い掛けた。

「何か策があるようだが……まさか、董卓将軍が曹操を倒す為に袁紹達を使っているなどと言う嘘を言ってまで私達に協力しようとするとは思わなかったのだが!」

そんな関羽の問い掛けに魏続は首を横に振る。

「私は嘘を言ってはいませんが、その誤解はその様に考える方がいるのは当然でしょう」

そんな答えに呂布は首を傾げながら言った。

「お前は曹操を討つ為に董卓と手を組もうとしていたのではないのか?」

そんな呂布の言葉に再び首を振る魏続であった。

「違いますよ……私はあの時から董卓将軍に仕えるつもりでいました。ただ、今はその時では無いと感じているだけです」

俺は魏続の言葉に引っかかりを感じ聞き返す。

「お前の言い分だと、董卓が漢を滅ぼすだろうと言っているように聞こえるが?」

その問い掛けに魏続は鼻で笑うと答えたのであった。

「そのままの意味です。私がいる限り漢を滅ぼすような事はしません」

その言葉を聞いても俺には理解できなかった。だが、李儒は違った様である。

「そう言う事ですか、つまり今は逆賊にならねば滅ぼされると思っていると言う事ですね」

その言葉に魏続は不敵に笑い答えた。

「それが私が今出来る唯一の償いなのです」

そんな会話が為されている中で、呂布達は敵軍と交戦していた。

呂布と李儒と張飛は一騎当千の働きをしながらも黄巾党を圧倒していたのだが、袁紹の兵も複数で襲い掛かってくるのを見て苦戦をする。

その強さは並大抵の者ではなかったので2人がかりでも簡単に倒せる相手では無かったのだ。

それでも少しずつだが袁紹軍の兵士達を倒すことに成功していたのである。

その為、袁紹軍の兵士が次々と逃げ出し始めた時であった。戦場に響き渡る大きな声が響き渡ったのだ。

「この様な暴挙……天が許す訳がないだろう!この様な事をしているといずれ罰を受ける事になるぞ」

その声の大きさから俺達のところまではっきりと聞こえたのである。

驚いた様にその声が聞こえた方を見たのは呂布と張飛であり関羽だけは表情を変えずに声の主である男を凝視していた。

俺はその男を見て呟いたのであった。

「あれは……袁紹の軍師の太っている男が何か喋っているな、アイツの名前は何だったかな……」

それを聞いた李儒が少し嫌そうな表情をしながら俺に言ったのである。

「張勲ですよ」

そんな二人の会話を聞いていた関羽が嬉しそうに話し掛けてくる。

「ならばあの肥満体と太った男は斬って捨てましょうぞ、呂布様」

そんな関羽の言葉に張飛はニヤッと笑う。

「お前は太った男が嫌いだったのか」

「いや……少し言い方が悪かったが、さすがにあそこまで太っていると少し斬ってダイエットさせた方が良いのではないかと思っただけだ」

そんな俺の返事に関羽は笑い出すと張飛も笑い出したのであった。

そんな二人の姿に戸惑いながらも俺は再び視線を太った男へ向ける。

どうやら袁紹軍の兵士達の退却の様子を見ていた男は自分が声をかけられている事に気が付いたのである。

「失礼ですが、どなた様でしょうか?」

そんな男に太った男は敵意を向けながら答えた。

「私は太尉袁術様の軍師である張勲だ」

「劉将軍と申す者でこの黄巾党討伐に参加する様に董卓将軍より命じられてまいりました」

そんな俺の言葉に張勲は鼻で笑うと呂布達の戦いを見ながら言ってきたのだ。

「だから何だと言うのですか?見ての通りこちらの方が圧倒的な優勢ですよ」

そんな張勲に関羽が笑いながら答えた。

「あのような奴の策に呂布殿が負けるはずが無い」

そんな関羽の言葉に俺は疑問を感じて問い掛けたのである。

「張飛は知っているのか?」

俺のその質問に張飛は笑いながら答える。

「劉将軍も知っているだろう?呂布殿の剣の腕の凄さを……今、目の前を見てみろよ」

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