第2話

諸葛亮の話というのは劉備に剣を作って欲しいという事だった。

しかし、呂布奉先は既に持っていたりする。

(まあ、関羽から盗んで……いや、借りたんだけどな)

諸葛亮は俺の剣を見つめながら言う。

「実は曹操殿に謁見した際にこの様な話をしました」

諸葛亮が黄巾党との戦いについて話始めると曹操は興味深そうに聞いていた。

そこである日、黄巾党の張曼成が現れて襲ってきた話になった。

その時に張曼成を撃退したのは関羽と張飛であり、関羽はその時に折れた剣を使った事を話した。

曹操が感心していると横から諸葛亮が言いづらそうに口を開く。

「その剣は以前、私が関羽殿から借りた物なのです」

その話に曹操が興味を持ったようで何か質問を始めた。

そこで呂布奉先が助け舟を出す様に口を挟む。

「実は黄巾党との戦いの最中で陳宮という者から関羽が剣を借りているのを目撃しました。しかし、曹操殿ならそれと同じ剣を作れるはずです」

その言葉に曹操は大笑いをする。

「なるほど、それでは関羽と言う武将に会ってその剣を見せて貰おうか」

そう言ってその場は終わったそうだ。

それを聞いた俺は呟く。

「嘘っぽいですね」

俺の言葉に諸葛亮は驚いた様子を見せた。

そして少し考えると笑顔で頷く。

「確かにそうですね……とにかく曹操殿と同盟を組む事が出来たのですから。呂布殿に剣を一つお願いできますか?」

俺は諸葛亮の言葉に頷くと、持っている剣の中から選ぼうとすると諸葛亮は残念そうに言う。

「もし宜しければ呂布殿の持っていた剣を見せて下さいませんか」

そう言われて俺は関羽の剣を一つ出すと諸葛亮に渡した。

すると諸葛亮はその剣を手に取って息を飲んだ。

「凄い……これを関羽殿は?」

俺は頷いて答える。

「彼は武人ですから、使える物は使うのです。他の人にはこんな使い方は出来ませんよ」

その言葉に諸葛亮は何度も頷いてその剣を眺めて暫く動かなかった。

(俺も張飛や関羽だったらこの剣を使ったかな)

少し疑問に思いながら俺は劉備の所へ向かった。

劉備は曹操と同盟を結ぶ事が出来た事に対してとても嬉しそうにしていた。

俺に対して感謝の言葉を何度も言っていた。

「さすが呂布殿です」

俺は微笑んで頷く。

劉備は俺の手を取るとさらに感謝の言葉を口にし続けた。

しかし、俺は複雑な気持ちでもあった。

黄巾党討伐が終われば再び曹操と戦う事になるのだろうと。

そのためにも劉備にはもっと強くなって貰わないといけないとも思っていた。

後日、関羽の剣が完成したと連絡を受け、俺たちは許昌を離れ南進する事になった。

それは孔明との別れを意味していた。

孔明も俺たちと共に南へ来る事を望んでいた。

だがそれは諸葛亮と共に曹操への出仕が決まっていた以上、叶わなかった。

孔明もそれを分かっていたのかただ微笑み言う。

「また御会いしましょう、いずれかは私が天下の名軍師になるでしょう」

俺はその言葉を笑いながら聞いた。それが孔明の本音なのかどうなのかは分からないが劉備軍と敵対だけはしてはいけないと思った。それは曹操と敵対する事に繋がるからだ。そうなれば呂布奉先とて無事で済むわけがない。

(出来れば、このまま孔明とは敵対したくないな)

関羽も複雑そうな表情を浮かべていた。

恐らく、同じ事を思っているに違いない。

劉備軍は荊州へ向かって進軍を続けるのだった。

次の目的地である襄陽までは関所が幾つもあり時間もかかるだろうと誰もが思っていたが、事前に分かっている通行許可証があったのでほぼ素通りだった。

洛陽を出る際に陳宮が手をまわして通行許可証を発行してくれたのだ。

(黄巾党との戦いの時も通行許可証をくれたよな)

俺が感謝の意を伝えると、陳宮は少し照れながら答える。

「この程度は当然の事です。兄上の為ならなんでもします」

そんな可愛い事を言うので俺は頭を撫でてやりたい気分になった。

(さすがに恥ずかしいしやめておくか)

そこで呂布奉先は急に思い出したかのように陳宮にある物を尋ねる事にした。

「実は君に一つ頼みたい事があるんだ」

そう言って俺は一枚の手紙を渡した。少し不思議そうな顔をしながら受け取った陳宮だが、中を見ると慌てて視線をこちらに向ける。

「これはどう言う事ですか?」

当然の疑問であろう。

何故なら俺こと呂布奉先が関羽に宛てた手紙だったからだ。

「いやね、暫く関羽は君と離れる事になるだろうし、今のうちにお願いしておいた方がいいと思って」

陳宮は悩む様に眉間に皺を寄せると何度か頷(うなず)く。

(流石の関羽も騙されないか)

そこで俺が具体的な内容を告げると、陳宮は目を見開き俺の顔を見つめた。

「本気で言っているのですか?」

「ああ」と答えて頷くと陳宮はしばらく考え込んでいたが最後には納得したようだ。

「分かりました、それとなく伝えるだけ伝えましょう」

俺はそんな陳宮に対して小声で言う。

「関羽には言わないでくれ。俺が関羽を試す材料にしたいんだ」

俺の言葉に驚いて口を開こうとする陳宮を止めると真剣な表情で伝える。

「分かってくれ……いずれ俺たちの前に立ちはだかる関羽という猛将と戦えるかどうか……それを見極めたいんだ」

陳宮は少し考える素振りをするとゆっくりと頷いた。

「分かりました」

そんな陳宮に礼を言うと、俺はその場を離れた。

俺の次なる相手は関羽である。

張飛には勝ててもまだ勝てない相手がいるように、俺にもまだ勝てぬ敵がいるのだ。

今より10年ほど昔、劉備軍と共に黄巾党と戦った時に知った強さ。

それが関羽という男である。

あの当時、関羽の武勇は多少聞き及んではいたが所詮は田舎武人だと思っていた。

(でも今なら分かる)

関羽という男の実力を。

それなのに、その実力は未だ底が知れていないのだ。

そんな時、呂布奉先という強敵が現れたのだ。

俺は考えたあげく、陳宮に手紙を送った。

俺と孔明との同盟を白紙に返して欲しいという内容だ。

さらに関羽とは二度と会わないよう勧める内容も書き込んだ。

関羽は俺の誘いには必ず乗るだろうと思っていたので、出来ればこの手紙を孔明から渡して欲しいのだ。

俺が孔明に頼んだ時、意外な返事であった。

「承知致しましたが、条件があります」

孔明が言う条件とは劉備の身の安全を保証する事である。

(なるほどな、裏切らぬと言いたいわけか)

俺としては劉備を守ろうが裏切ろうが関係なかったが、孔明からの頼みでは仕方がない。

「分かった、約束しよう」

俺の返事を聞くと孔明は頭を下げると急いで去っていった。

(そんなに劉備が心配か?)

そんな事を考えつつ俺は劉備の所へ歩いて行った。

蜀王こと劉玄徳は百官や武将を謁見の間に呼び集めていた。

その中には曹操軍の諸将たちもいた。

最後に現れたのは諸葛亮と関羽である。

その時、謁見の間を異様な緊張が支配していた。

特に関羽にとっては黄巾党討伐以来の劉玄徳との再会であったからだ。

「皆の者、よく集まってくれた」

そこで劉備は深く頭を下げると皆に礼の言葉を述べた。そして言葉を続ける。

「私がこの世界に呼び出された時、様々な困難があった」

そんな劉備の言葉に異を唱えるものがいた。

曹操軍の武将である夏侯惇だった。

「それをいうなら我らも同じじゃ、だが我らは呂布などという化け物と戦っていたわけではない。軍師殿は自らの能力の無さを他のものに転嫁し、我らを侮り始めたという事じゃな」

そう嘲笑しながら夏侯惇が言うと曹操軍の武将達も頷(うなず)く者もいた。

そんな時である、劉備は顔を上げて言ったのである。

「今の話は否定出来ない事実だ」しかしその後の言葉は全く逆であったのだが。

「そんな私を救ってくれた人がいるのだ」

そう言って劉備は呂布奉先の方を見る。

周囲の視線が呂布の方に集中した。

そんな中、関羽だけは不思議そうにしていた。

「ま、まさか!?」

そんな関羽の事などお構いなしに劉備は真っ直ぐに視線を向けると再び口を開く。

「私を救い、ここまで連れてきてくれたのはこの御方だ」

(は?何を言っているんだ?)

とその場にいた全員が思った瞬間、扉が開き数名の武将が入ってきたのだ。

最初に入って来たのは張飛であった。

そしてそれに続いて関羽、黄忠、厳顔の順に入ってくる。

更に劉備の両脇には諸葛亮と鳳統がいたのである。

「なぜ関羽殿が呂布奉先の両脇に!?」

その事実を知った曹操軍の諸将からは悲鳴に近い声が上がる。

そしてその後に続くように入って来た者たちは皆、驚愕の表情をしていた。

そんな中でも呂布は表情を変えずにいたが内心では驚いていた。

(魏続!?夏侯惇に魏越、夏侯淵までいるじゃないか!?)

関羽の他に名だたる武将が呂布の横に並んでいるのだ。

驚かないはずがなかった。

(これって俺に対する牽制か?)

そう考えると辻褄(つじつま)が合う話なのだ。

劉備軍を滅ぼそうとすれば俺が止めると言いたいのだ。

つまり曹操軍が天下を取る為には関羽の首では足りないと言っている様な物であった。

そんな緊張感が漂う中、諸葛亮が劉備の横に立った。

「諸葛亮殿、お主が何故ここにいるのじゃ?」

曹操軍の武将である曹性という武将が騒ぎ始めたので劉備は口を開く。

「お主らが不思議に思うのも仕方のない事じゃ」

そう言ってから関羽の事を紹介しようとした瞬間、横から陳登と法正が入ってきたのだ。

(確かに彼らの話はしてたけど早すぎないか?)

突然の出来事に俺は目が点になっていたと思う。

そんな俺に対して関羽が話しかけてきたのだ。

「久しいな、奉先殿」

そう俺に声を掛けると軽く笑う。

俺が何も答えずにいると周囲が更にざわめき始めた。

(なんでお前らこんなに早く揃うんだよ!)

そう思った俺は慌てて口を開く。

「これは何の騒ぎですか?私は魏続殿と話をしていただけですが?」

それを聞いた曹操軍の武将たちは顔色を変える。

「そんな馬鹿な!?」

そんな中、いち早く平静を取り戻した曹性が言った。

「魏続は関羽殿や呂布奉先と共に行動していたではありませんか?」

そんな曹性の声を聞いた劉備は驚きつつも首を横に振った。

「それは違うぞ、関羽殿は奉先殿に味方した事で共にいるのだ」

(何言っているんだよ?)

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