第24話 忘れられない

 ようやく新規の客、常連の女性客のカットも終わりらいは一旦控え室に入った。


 ふぅ、とため息をついて椅子に座り

「どんだけなんだよ、てか僕たちはそんな関係じゃ無いし……それに僕ゲイじゃなくてバイって思われてるのか?」

 とつい声に出してしまった。


 新榮しんえいといい、リカの古参のオタクといい來がリカと付き合っているかのように見えるというのは問題である。

 職場も時間差をずらして出勤しているのだがなぜかあちらが合わせてきて、仕事終わりは技術指導の際には自分とリカだけにならないようにしているが、帰りは危ないからとリカの部屋まで送っていく。もちろん入ることはない。

 でもその距離感でも二人が付き合っているように見えるのか、と思うと自分がどれだけ気をつけても難しいと感じるが、かと言ってリカに距離を取るのもよくないし……と。


 あまりネットを見ない來は恐る恐る自分の名前を検索する、エゴサーチたるものを初めてしてみた。


 すると美容院検索サイトのプロフィールにすぐ表示される。

 そういえば以前大輝からこのサイトには写真と名前が掲載されると言われ、下の名前と横顔の写真を撮影してもらったことを思い出した。


 そのサイトを見て指名をくれる客もいれば來が也夜なりやの恋人と知っていて指名するものも多かった。

 レビューもできる機能もあるサイトだが大輝がレビュー評価は個人にはできないように設定したようだ。あえて來は見ていない。


 たまにカヨが朝礼で気になる評価を読み上げているがそこまで酷いものはなくホッとはしていた。

 作って持ってきた五目おにぎりを口に入れ、他の検索に戻ると思った通り也夜の記事も多かった。

 いちいち全部は見なかったが、也夜の事務所のホームページを見た。



『上社也夜への応援メッセージをこちらで受け付けております。

 弊社では全てのメッセージを読んでおります。日頃からの応援、ありがとうございます。

 事務所では昨年より規定サイズ内の手紙以外のもの、プレゼント、花束の受付は承ることはできません。ご了承ください。

 また、彼の入院している病院へのお見舞いやご自宅、家族などへの取材もお断りしております。』


 と。


 事故前の写真も閲覧できるようだがファンクラブに入らないと半分ほどしか見られなかったのだが今はファンクラブ会員以外でもほぼ見られるようになっていた。


 也夜と付き合っていた頃はファンクラブに入ることはしなかった來。

 なぜなら着飾ったモデルの也夜よりも一緒にいる時のふわふわっとした也夜が断然好きだったのだ。

 もちろんモデルの也夜はかっこいい、それはわかっているのだが自分に見せる本当の也夜はこのサイトに載ってる也夜よりもよい、來は写真を見る。


 だが來との交際を始めてからは写真の雰囲気も変わっている、多分このあたりか? と來はわかった。

 包み隠さず自分を出したい、と同性愛者という事、來との交際を発表してからはモデル以外の写真で笑顔が増えている。


 なかなか2人で写真を撮る機会がなかったと思い返すと也夜単独の写真がこうして残っているのはありがたいと一枚一枚時間を忘れて眺めてしまう來。

 なんであの時写真を撮らなかったのか……也夜にたしか事務所からプライベートの写真は仕事以外では控える、その癖もあってか也夜は写真をあまり撮る癖もなかった。

 也夜もそう写真を撮るような人間でもなかった。だから結婚式の準備の際、2人の写真が無さすぎて困ったくらいだと。結婚式の前撮りくらいだろうか。着飾った2人。


 でも自分にしか見せなかったベッドの上で悶える也夜の顔だけは流石にない、それを知っている自分。ファンクラブや一般の人には見せないあの表情……來はついそれを思い出し優越感に浸り下半身が疼く。


 そのところでハッと我にかえる。

「バカか、僕は」

 忘れたいのになぜ忘れられないのか。忘れたいはずなのに……スマホの画面を閉じた。

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