第四章 出会った頃

第17話 だ、か、ら!

古滝こたきリカです。よろしくお願いします!」

 大輝やスタッフたちの前で深々と頭を下げるリカ。


 前のバイト先の美容院を辞め、大輝の美容院で働くことになった。


 もちろんらいもまだいる。大輝は以前清流ガールズNeoの現場にいたからリカとはもちろん顔馴染みではあったが久しぶりに見た彼女がまさか美容師を目指しているということには驚いたようだ。


「学生時代から僕のもとで働くってのは來と同じだね。頑張って」

 そう大輝が言う。

「はい。來くんのお店ができる頃には免許も取って一緒に働けたらなぁって思ってます」

「その頃にはもうアイドルはやめちゃうのかな」

「……んー、美容師アイドルってなかなかいないし。最近アイドルも楽しいから……」

 まだ卒業、解散のことは公には言えないリカは口を濁していたがツートップの二人が結婚、片方が妊娠という噂が流れ新榮ら何人かのスタッフが未成年のメンバーと関係を持ったことが少し影を落とす中、リカは少し人気が上がり、体調を崩した(これまた妊娠は公にされていない)ルリの代わりに出た東海ローカルの番組でのロケで人気芸人とのコラボともあって、彼女の辛口なトークも受け評判が良かったらしい。


「少しアイドルの仕事増えちゃって……学校もちょっと最近休みがちだけど頑張ります」

「そうだね。リカチャンが抜けても大丈夫のようにシフトは組んであるから。美容師試験も大事だけどアイドルの方も頑張って」

「はい。みなさんもご迷惑かけるかと思いますがよろしくお願いします!」


 とリカは頭を下げた。そして女性スタッフから店内の設備案内を受けるためこの場を離れると來は大輝にスタッフルームに呼ばれた。


「なんか以前会った時よりもリカちゃん雰囲気変わったよね」

 來はドキッとする。正直付き合ってるか付き合ってないかグレーな所だがあくまでも友人。來にとっては也夜を忘れるためにはちょうどいい相手。


「オフの時も辛口気味だったけどあれは自分の気持ちに蓋をして隙を見せないようにするためだったのかもね。なんか物腰柔らかくなってる……きっとあれが素顔なんだろうな」

「でしょうね。最初の頃はツンツンしまくりだったから本当困ったもんで」

 と、來は大輝の視線を感じた。

「まさかだけどさ、リカちゃんと噂になってるスタッフってお前のことか」


 來は目線を逸らそうとしたがここで逸らすと認めたことになると思い大輝を見る。

 だがどうしても動揺してやはり最後には目が大きく動いて逸らしてしまった。大輝もやっぱり、という顔をしている。


「……どうした、來。お前女もいけるのか? バリネコのお前が」

「いや、そんな関係じゃないですって。僕は……無理だし、あくまでも友人……」

「女は無理かと思ってた。友達、あとカヨさんとか異性のスタッフともある程度距離あったのに……どうして」

 だからぁ、と言っても大輝は勝手に解釈した。かつて自分の恋人が女とも関係を持ってしまったのかと。來は参った顔をする。


「ただでさえ仕事も一年後に契約終了……まだ來とリカちゃんのこと表に出てないけどリカちゃん人気になってる時にそれバレたらどうするんだよ」

「……だ、か、ら! あくまでも僕とリカちゃんは師弟関係です。シャンプーの仕方とか試験勉強とかもちょこちょこ教えてるし」

「二人全裸で風呂の中でちちくり合ってやってるんだろ」


 ……勝手な想像を、と來は思いながらもでもリカのシャンプーのこつは実際にシャンプーはせずに頭を貸しているのは事実だ。


 リカの指遣いはとてもよくひど良い力加減だ。

 髪の毛の乾かし方、ブラシの当てかた……來はレクチャーをしている。


「……カヨさんもなんとなく勘づいてるから」

「うそっ、まじかよ」

「女の方が勘が鋭い。來、なんかオスになったって」

「オス……?!」

 大輝は自分で言って笑った。とんでもない勘違いが1人走りしていることに戸惑いを隠せない來。

ただリカと付き合っているだけで自分がオスになったというのか? 鏡を見るがそんなのわからない。


「オスかぁって。自分は來のメスというかネコなところしか知らないからさ……。まぁバレないように頑張れよ」

「ちょっと……」

「てかさ、來って芸能の世界の人間と縁があるよな」

 也夜……と思い出す。


「じゃあ今日もよろしくな」

 と背中を叩かれる來。店に戻るとリカが待っていた。

  

「ここでは來さん、かな。よろしくお願いします」

「よろしく……お願いします」

しかし本当に気まずい。


「はいはい、ここは職場ー」

 カヨがやってきて手を叩きリカは何事? みたいな顔をした。


 道具を腰のカバンにセットして掃除を始める。ふと個室を見る。


 そうだ、と來は思い出す。3年前、大輝の元で働いて少し経ってこの個室に呼ばれたことを。


 そしてその中にいたのは……也夜なりやだった。

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