第12話 声

 夜。


『ごめんなさいね、うちの湊音みなとが言葉が強かったかな』

「いえ……きっと湊音さん心配してくれてのことだと思います。それにわざわざ電話ありがとうございます」

 らいの元に李仁りひとから電話が来た。


 

『湊音も元高校教師じゃない、生徒の歳に近い子が将来ぼんやりで決まってないとついついお節介したくなっちゃうと思うのよ。許してやってね』

「いえ、ああして言ってくれなかったら……ずっと僕は止まったままでしたから」


 話しているのは也夜なりやと選んだソファーにかけて、である。


 二人で座るはずだったソファーに一人。


 時に仲間や友人、李仁や湊音、大輝もいたがこうして一人で過ごす時もだいぶ慣れてきた。クラブ通いはめっきり辞めた。やはり体を痛めつけてまでするものではないなと。




「湊音さんも、今まで僕に言いたかったと思うんですけどもうそろそろ一年ですし、心配してくれていたんだなって」

『何言ってるの、ずっと心配してたわよ。湊音以外にも私も大輝もみんなも……あなたの今後のことを心配してる』

「……」

『まぁ死にはしないでしょ、とは思ってたけど』

 重い話から少し李仁が話をずらした。來はつい笑ってしまった。


「死ぬことはないです、確かに」

『そうよね』

「……忘れて、僕は1から頑張ります。みんながこうして僕のことを僕の将来のことを心配してくださって。也夜の家族からも離れろと言われたのも……僕のことを考えて、ですよね」

『かもね。いつ也夜が目を覚ますか。でもわからないものね。もしかしたら明日、いや来年、再来年、十年、何十年……』

「そんなに」

『冗談じゃないわよ』


 何年、何十年後……自分はいくつになるのか。30も超えて40歳近くになっている。


「……」

『もし万が一、何年後かに目覚めて……來がただ闇雲に下っ端な雇われ美容師だけをやっていても也夜は嬉しくないと思う。お店を経営したり後輩たちを指導したりしてさらに高みに登ったあなたの姿を見たら喜ぶと思うわよって、ごめんごめん、私まで説教垂れてしまうわ。じゃあ今日はゆっくり休んで』

 なんとなく彼の声が也夜の声に似ている。來はそう感じた。


「李仁……さんっ」

『なに? 來……』

「まだ、電話を切らないでくださいっ……」

 

 なぜなんだ、忘れようとしているのに……と來は心が苦しくなる。


 このソファーは家具屋で也夜と二人で座り、色と素材もこだわった。忙しくても休みのときに一緒に横に座ってくつろぐのならちゃんと決めて買おうと。

 ソファーとベッドは特にこだわった。なんとも言えない気持ちと共に体を沈めた。

「すいません、やっぱ切ります」


 自分から電話をやめてため息をついて目を瞑った。

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