13日目 到着直前に漂流。


月は大きな魔力の塊だ。


名はルナという。


異界の月の名前らしい。

獣の体は両性で、人間の体は男だ。


そのため、精神は男性に近い。


魔力が体を得るためには生物を生きたまま取り込む。

その取り込んだ体が男だっただけだろう。


あれだけの力があって人間形態がひとつというのは珍しい。

1人しか取り込んでいないことになる。


……珍しい?


久々に感情が沸いた気がした。



しかしここでまた運命が傾いた。


魔法学の国到着寸前で転移者だけが海に放り出されて死んだ。



何度繰り返してもひとりで海に出る。


月についてきてもらえれば生き残れるのに何故だ。

体力や運動神経だけでなく頭も弱いのか。




少しだけ興味がわいた気がした。





ボートが傾き溺死し、神域に近づきボートが壊れ溺死し、沼に辿りついて魔蛙に襲われて殺される。


大雨が降ってボートが傾き海に落ちて、水生生物に丸のみにされ腹の中で半日かけてすりつぶされて死亡。



沼に辿りついたのが3割。

6割は海上で死亡。



あとは電気と機械の国付近での死亡。


電気と機械の国の防衛センサーで銃殺。

電気と機械の国の違法漁の業者に見つかり、ボートを爆破されて爆死。

同上の状況で死にきれず溺死。

漁船と衝突し沈没して溺死。



たちが悪いのは……この未来の先はどれも月の暴走で国がふたつ滅びる。


そして、高い確率でエルフがこの世界を見限り、この世界の魔物を倒す強者が去る。



この先この転移者が死ねばどれもこのエルフが世界を去る未来に繋がる。

もうだめか。


しかし、こんなにエルフと月に気に入られるとは思わなかった。

この転移者が死んでも問題ない状態に戻すには、エルフと出会う前まで戻さないといけない。


エルフと月が関連する事象の書き換えには膨大な力が必要だ。

その上、0日目に戻るには時間が経ちすぎだ。

単純に13日戻すだけの力ではない。

これまでの巻き戻しすべてを無かったことにしなくてはならない。

特に今回は読み違えて何度も13日目を覗いた。

18日目までの経過も何度も観察した。


今回はその長い期間を、初日の虫の時に匹敵するほどやり直しをしてしまった。


砂漠に行くまでどうにか生かして、帰還用の魔力を捻じ曲げて0日目に戻すように使わせるのが良いだろう。

そこまで行ってくれるなら、もとの世界に帰ってくれてもいい。


とにかく砂漠の国に生きて辿りついてもらわねばならない。

でなければこの世界が大きな力を失い、滅びる。



ただ、この転移者が無事だったとしても、いつ去るかわからないものに頼り切った時点でこの世界はもう駄目だ。

滅びるのを先延ばしにしているだけなのだ。



滅びが近いからだろうか。

最近少しだけ感情というものを思い出せそうな気がする。




とにかく、今はこの儚い転移者が生き残るまで繰り返そう。




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