大海に落ちた水滴
主神が消えた瞬間、私の意識が少しだけ戻ってきた。
それがまたなくなる前に次の主神候補が現れる運命を探した。
―――転移者。
弱った私の力ではそれだけしかわからなかった。
少しでも神格を持てる可能性のある転移者の運命をひたすら伸ばす作業を続けた。
有力な主神候補はなかなか現れなかった。
エルフがこの世界の神を殺したことに罪の意識を持って魔物を狩り続けてくれているが、いつ飽きてこの世界を離れるかもわからない。
その予兆が現れるたびに運命を調節してきた。
神格を持ちそうな者は何回か現れたが、どれも性格に難があった。
傲慢であるだけならば問題はない。
滅びを望んだり、他者を妬んだり……人の悲しみを喜ぶような性格では邪神に堕ちて世界のバランスを崩してしまう。
何度も何度も。
ある時は即死するはずの転移者を生きながらえさせて運命を覗いては、落胆した。
落胆する気力さえ無くなる頃には、転移者のあらゆる運命を覗くだけの作業をする……神の面影が消えてしまった
並行で育てている神候補の天使は、前の主神そっくりだ。
邪神に落ちる未来が見えないだけマシなので保険として育てていたが、今の私は殆ど自分の意思や欲が無い。
今は世界の
主神がおらず、他所の化物に魔物を狩ってもらわねばすぐにバランスが崩れて世界が終わる。
その状況で運命の管理さえ天使に任せてしまえば……。
そうなれば、この世界は終わりだ。
それを避けるためにあれこれしていたのだが、
先が見えない。
なぜ運命を調節しているのかさえ考えなくなってきた。
転移者が神格を持つ可能性が、砂漠の中の砂粒ひとつほどだとしたら。
その者がこの世界を気に入り、自分の世界を捨ててこの世界の神となり、堕ちずに世界を見守る主神で居続けてくれる可能性はさらに低い。
自分の世界を捨てるような人間は軒並み堕ちる。
自分の世界を大切にする真っ当な人間は自分の世界へ帰ってしまう。
そもそも矛盾しているから現れないのだから、そんなものが自然に現れるなど、作り話で語ることさえ不自然だ。
大海原に水をひとしずくだけ垂らして、3日後にその水を探して見つけられるか。
それほど無理な話だった。
きっと今回も巫女に頼む願いは『元の世界に帰ること』だろう。
それでも私は……道具になってしまったからだろうか、数ある運命の中から転移者が長くこの世界に滞在する運命に調節していく。
どんな苦しみを与えても、どんなに犠牲者が出ても。
神格を持つ可能性がある転移者が少しでも長く生きる運命を何も考えずに選んだ。
雫がひとつでもふたつでも、海に落ちたら消えるというのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます