世界が終わる6年前

@matupurinn

第1話

♦︎世界が終わるまで6年と7ヶ月♦︎


「俺はこんな所で死ぬのか……」


 そう言いながら地面に横たわる15〜16歳ほどの少年。彼の周りには血の池が出来上がっている。真っ黒な髪に真っ黒な瞳は極東の島国である日本によく見られる外見だった。


「右腕が千切れて足も捻れてる……なのになんで痛みは感じない?」


 疑問に思うのも無理がない。なぜかハッキリしている意識。千切れた腕や捻れた足を見ても取り乱さない心。今の少年には分からない事だらけだった。


「何が起きたって言うんだ?俺は確かに天使に痛ぶられて最後はここに捨てられた」


 人間廃棄場と呼ばれるこの場所には数多もの死体に人骨が散乱している。


「黒い……羽……?」


 少年は頭上から舞い落ちる濡羽色の翼に酷く目を奪われる。


「貴方、良いわね……心が壊れてしまっている。その上あまりのストレスに痛覚すら失って……ああ!私は貴方が欲しい!」


「お前何を言って………………」


 濡羽色の大きな翼に銀色の髪、紅の瞳をした美しい少女は一瞬で少年の唇を奪った。


「なんだ……俺に何をした?」


「あら?魂への直接的な痛みすら感じないの?ますます良いわね!」


「おい!少しは質問に答えたら…………腕が、足が治って……傷も全て……」


「当たり前でしょう?堕天使の女王たる私が貴方と契約したのだから」


「契約?」


「そう、契約。私の騎士となり天使たちを滅ぼす契約。まあ私からの一方的で強制的なものだけどね」


「俺に天使を倒せるのか!」


「ほら?ちょうど良い所に第十二位の天使様がいらっしゃったから試しに戦ってみたら?」


 瞬間、暗いはずの廃棄場に凄まじい光が生まれる。そして光の中心から現れたのは純白の翼を持った金髪の美男子だった。


「変な力を感じて来てみればただの人間?勘弁してくれよ。こっちだって忙しいんだからさ」


「ああ天使様には私の姿も見えないし声も聞こえてないから安心なさい」


「天使………許さない、お前らだけは!」


 少年は我も忘れて天使に殴りかかる。その拳には黒いオーラが宿っており、天使の肌を薄く焼いた。


「な?!堕天使のオーラ!くそ!あいつらめ!人間と契約してまで我々の邪魔をする気か!」


「あら?気づくのが早いわね。貴方の堕天使の力への適応力が優れているからかしら?」


「死ね!!天使!」


 さらに拳を振るうと先ほどよりもオーラが濃くなり、少年の瞳の色は紅に変化していた。


「あら?もう瞳の色が変わったの?なら私を使いなさい。貴方に天使を滅する剣をあげるわ。貴方ならわかるはずよ。力の使い方が」


「言葉が浮かぶ……」


 少年の周りを黒いオーラが迸る。全てを飲み込むような暗黒に天使は目を見開いている。


「天に叛け!《ルシファー堕天使の女王》!」


 空間を切り裂き現れたのは堕天使の女王ルシファーの魂を武器に変えた黒銀の剣。刀身には紅の線が走り。怪しく光り輝いている。


「そ、それはアイツの!何故だ!アイツは確実に死んだはず!」


「ごちゃごちゃうるせえ!天使は全員黙ってくたばれ!」


 渾身の力で振り抜かれた剣は天使の身体を真っ二つに切り裂いた。そのまま天使は金色の粒子となり少年の身体に吸い込まれる。


 少年の瞳はさらに濃い紅に染まり、背中には堕天使の女王と同じ濡羽色の翼が生えていた。

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