巻き込まれ魔王の異世界生活~逃げ出した魔王は百合ハーレムを作ってゆっくりしたい~
黒百合咲夜
プロローグ
魔王城の最深部。禍々しい玉座が置かれた最終決戦の場で。
数多の魔王軍を退け、遂にこの場所までたどり着いた勇者とその仲間たちが私に向けて武器を構えていた。
「覚悟しろ魔王メランコリー! お前を倒し、この世界に平和を取り戻してみせる!」
勇者が勇ましくそう宣言する。
彼の後ろにいる仲間たちもその言葉に同調するように頷き、ある者は魔力を高め、またある者は手にしている武器を強く握りしめていた。
そんな彼らを見て、私は思わずフフッと笑ってしまい――、
いや、マジでふざけんな。
兜を着けているおかげで気づかれてないと思うけど、もう冷や汗がだらっだらの状態であった。
いやこればかりはほんと弁明させてほしい。
そりゃあ私は魔王だよ? 人類と敵対し、人間界に侵攻して虐殺と非道の限りを尽くしてきた魔王軍の頂点だ。
でも、これ全部部下が勝手にやったことなんですけど。
常闇の使徒を名乗る女に騙されて魔王になったのが三年前。
まぁ、なっちゃったものはしょうがないしおとなしく魔王として適当に魔界でも統治しようかな、と思って政治の勉強をしていたんだ。
そうしたら、いつの間にか魔界中から有力な魔族が集まって幹部組織が編成されて、いつの間にか過去最大規模の魔王軍ができあがっていて、いつの間にか常闇の使徒が勝手に魔王軍を動かして人間界に攻撃を仕掛けていた。私が事に気付いた時には既に人間の国が四つくらい滅んだ後だったから、もう引き返せなくなっていたよね。
そのせいで魔界では歴代最凶の魔王として祭り上げられるわ、人類からは史上最悪の魔王として憎まれるわでもう大変なことになった。
あれ、なんでだろう。静かな場所で自由に生きるという私の夢はどこへやら。
で、挙げ句に光の神々は勇者を遣わせて、その勇者は私を倒すためにこうして魔王軍幹部たちを倒してこの玉座の間までやって来た。
侵攻も虐殺も全部部下が勝手にやったことなんです。私は何もしていません。
これを勇者が信じてくれたらどれだけ楽だろうね。けど、私には分かる。こいつら絶対に話が通じない。
そして、魔王軍の幹部連中は私よりも強い奴らがゴロゴロいた。そんな奴らを倒してきた勇者たちと戦って私如きが勝てるとでも?
部下が勝手にやったことで殺されるなんて冗談じゃない。そんなのまっぴらごめんだ。
どうにか生き延びる方法を考えて……うん、これしかないな。
焦っていることがバレないよう平静を装いつつ、不適に笑ってみせる。
「ふふふはははは! 我は魔王だぞ? たかが幹部を相手にしてそこまでボロボロになった貴様ら如きが、我を倒せるとでも?」
「くっ……! たしかに、この凄まじいまでの威圧感……これが魔王か……!」
ちがいまーす! 全部後ろのバカ女のせいでーす!
玉座の裏で待機している常闇の使徒。
彼女が発している邪神由来の闇の力に圧された勇者たちが怯えの混じる視線を私に向けてくる。これは私の力だと上手く勘違いしてくれているな?
誤解させることができたのは常闇の使徒のおかげだけど、元はと言えばこいつが戦争を始めなければこんなことにはならなかったので素直に感謝することができない。
でも、せっかくだからこの好機は利用させてもらおう。
そう思って、私は持っていた双剣で背後の空間を切り裂く。
「しかし、あれだけの幹部を倒してここまで来たのだ。それは褒めてやろう!」
「っ!? 何をするつもりだ!?」
「貴様らに時間をくれてやるのだ。我はこれより時間移動魔法で未来の世界に移動する。そこでなら、貴様らも万全の状態で戦えることであろう。我と戦うだけの準備期間をくれてやるのだ」
嘘なんですけどね。
私が使ったのは次元移動魔法。発動に一人では足りないほどの莫大な魔力を消費するけど、こことは違う別の世界へ転移することができる魔法だった。
勇者が来る前に倒された幹部の死体から残存魔力を抜き取っておいて良かったと心から思うよ。
裂かれた空間が生じさせる吸引力の影響で、私の体が浮き上がって空間の裂け目へと引きずり込まれていく。鎧が砕け、可憐な美少女である私の真の姿が露わになった。自称だけど自称じゃないぞ。
「待て魔王!」
「さらばだ勇者ども! 我が戻るその時を震えながら待つといい!」
一生戻らないんだけどね。
そして、今度こそ自由で快適な生活を!
そんな風に考えていると、私の体は完全に空間の裂け目へと引きずり込まれていって――。
その日、人類を脅かした魔王メランコリーは、不吉な予言を残して裂け目の向こうへと
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます