15話 やはり夜宮霞は面倒くさい美少女である

「やっぱり、不公平だと思うの」


 昼休みに入り、旧特別棟を訪れた夜宮さんは開口一番に不満を露わにしていた。


 最後に彼女と話したのは北沢さんからの一件を引き受けた帰り、期間としてはだいたい一週間とちょっと間が空いたことになる。しかし、射貫くように目を据えている彼女の雰囲気は相変わらずといったところで、最初にここで話しかけられた時の雰囲気と重なって見えた。


 とはいえ、全く変わっていないのかというとそうでもない……いや不機嫌なことに違いはないのだが。あのときのような威圧感はなく、むしろ、わかりやすくむくれているだけ可愛らしいほうだろう。マシな要素を探そうとしている時点で色々とダメな気もするが。


 それに、雰囲気といえば夜宮さんの格好もあのときとは少しだけ違っていた。以前と違ってブレザーは着ておらず、第一ボタンを外した長袖の白シャツにはリボンもつけられていない。


 そういえば、この松籟しょうらい高校は服装についての校則はそこまで厳密ではなかった気がする。もちろん指定の制服はあるものの、それ以外については過度に奇抜なものでなければ構わないという曖昧な表現がされていたんだったか。

 男子はネクタイ、女子はリボンの着用が推奨されているが義務付けられているわけでもなし。なんならファッションとして女子がネクタイを付けているのも珍しくはなかった、その逆を見たことはないけれど。


「……挨拶もなしにいきなりなんて、随分だな。それで? 今度は何が気に食わないんだ」


 遠回しに朝の出来事を言及したつもりだったのだが、夜宮さんは何食わぬ顔で対面に座るとご立腹だと主張するように腕を組んだ。


「あれから何度も考えてはみたけど。朝霧君、学校に居るときの私がどんな風に過ごしているかある程度知っているんでしょ? 私は君のことをほとんど知らないのに、そんなのずるいと思う」

「そのことか。もう一週間近く経つのに、よく覚えてるな」

「どうせ忘れてなんかいないんでしょ? 顔がそう言ってる」

「福笑いなら残念賞くらいは取れそうだろ?」


 話を逸らすなと無言の圧が強まるのを感じるが、こちらも涼しい顔をしたまま受け流してみせる。


 ごく普通の女子高生であれば、この時点で『うざい、キモい、消えろ』の罵倒三銃士を連れてくるのだが、そうならない時点で夜宮霞がいかにお人好しであるのか想像に難くない。


 とまぁ、茶化すのも程々にするとして。どうやら彼女の学校生活の一部を知っていたことがよほどお気に召さなかったらしい。実際はそのほとんどが、夜宮さんと対話する中で推測したものではあるものの、裏取りも兼ねて泉から話を聞いていたのは事実だ。


 しかし、本人以外からは聞かないとは言っていないのだし、説明不足だと追及されたところで確認しなかった夜宮さんに落ち度がある。気に入らないのなら同じやり方でこちらの情報を探ればいいだけの話だ。夜宮さんにそんなことを聞きだせる友人がいるのかは知らないけれど。


 ……なんて理路整然と回答しようものなら、デットエンドへの直通便に乗車してしまうことは親切なフローチャートがなくても予想できた。正しさというのは日常の中で求められるものではない。そんなものは交渉や駆け引き、一方的な弾圧でこそ使うべきものである。


 もとをただせば自分がいた種だ。ここは夜宮さんの気が済むまで、大人しく話に付き合うのが筋だろう。


「自己紹介なら既に済ませただろ。あれ以上何が知りたいっていうんだ」

「あんな自己紹介でわかることなんて、君が変人であるということだけでしょ? あとは空気を読まないとか減らず口が多いとか」

「それだけでも十分な収穫じゃないか。こっちはクラスと名前だけだぞ? 夜宮さんの秘密主義には困ったもんだ」


 散々な憎まれ口を微笑ましい笑顔で受け流しつつ、夜宮さんがした自己紹介を引き合いに出す。痛いところを突かれた自覚はあるようで、言葉を詰まらせた彼女は恨めしそうな目を向けて口をつぐんでしまった。


 たった一言の切り返しで撃沈しまうとは……愚直さを称えるにしても、ここまで呆気なさすぎると張り合いがないというか、思わずため息がもれてしまう。


「勢い任せなのは結構だけど。追求する気があるなら、せめて反論の一つくらいは用意しておいてくれ」

「……少しくらい気を利かせてもいいのに、ばか」

「気の利かない男で悪かったな。 ……それはさておいて。夜宮さん、本当に朝は苦手だったんだな」


 そっぽをむいてしまった夜宮さんをなだめつつ、今朝のことを話題に持ち出した。


 すると夜宮さんはぽかんとした顔をした後、思い返す素振りをしながらおもむろに口を開く。


「そのとおりだけど……何か含みのある言い方に聞こえるのは気のせいかな」

「こっちとしては露骨に言及しているつもりなんだけどな。その様子だと、やっぱり今朝のことは覚えてないわけか」


 十中八九、寝ぼけているだけだろうとは思っていたが、まさか心ここにあらずとは。夜更かしをした翌日の朝に涼音がふらふらとリビングをさまよっているところを度々見ている身としては、驚きはしたものの理解できないというほどではなかった。


 それはそれとして、記憶にございませんという言い訳が誰にでも通じると思われては困る。挨拶を無視する行為は人によっては一発アウト、赤の他人同士なら交流する縁自体が切れてしまう原因になりかねない。


 こういうのは柄じゃないし……なにより、今の主義にも反するのだが。周りにお優しい大人がいない以上、しばらくは憎まれ役になることも避けられないか。


「俺はともかく、他の人が挨拶してきたら返事はしたほうがいいぞ? 人によっては致命的な悪印象になりかねないから、気をつけたほうがいい」

「そ、そう……ごめん、次からは気をつける」


 朝の記憶が曖昧なことの自覚はあるらしい。思ったよりも素直に聞き入れた夜宮さんは申し訳なさそうに萎縮していた。


 ……いや、少し違うか。きっと、夜宮さんはもとより素直な性格なのだ。感情もどちらかといえば顔に出るほうだし、繰り返しになるが俺のくだらない軽口に付き合おうとする時点でその心の広さは疑うまでもないだろう。


 人一倍朝が苦手で、美味しいものを食べれば頬を緩ませ、不満があれば口を尖らせる。皮肉や冗談を無下にせず取り合ってくれる懐の広さもあれば、しばらく会わなかったことを根に持つなんてシビアな一面もある。

 見切り発車で動きがちだが考えなしというわけでもなく、先日の下校している時の様子からして、むしろ感情の機微には敏感なほうだ。彼女が他人からの告白を事前に断ることなく受け続けているのは、そういった性格の影響もあるのかもしれない。


 ……クラスと名前だけ、とは言ったものの。思っていたより、俺は夜宮さんのことを知っているんだな。


 つらつらと浮かぶ言葉をなぞっているとそんな感想が湧き出てきて、思わず破顔してしまう。夜宮さんと話したのはほんの数回だというのに、表層をなぞるだけで何をわかった気になっているのやら。


「……なんでそこで笑う?」


 面白がられていると思ったのか、夜宮さんはわずかに眉をひそめる。


「ん? あぁ、悪い。そういうつもりで笑ったわけじゃないんだ。確かに、夜宮さんの言う通りだなと思っただけで」

「私の言う通りって、なにが?」

「自分が思っていたよりも、夜宮さんについて知っていることが多いなって」

「……それなら大人しく白状すればいいのに。何をもったいぶってるの、君は」

「食い下がるなぁ……だいたい、男の自分語りなんてつまらないだろ」


 男なら背中で語れ、なんて熱血漢には程遠い俺の話なんてオチもなければツッコミどころもない。かといって、好き嫌いだの趣味だのと考えなしにありきたりな質問責めをされるのも困る。答えた後がつながらないのでは、お互いにただ疲れるだけだ。


 そう思いつつも目の前にいる夜宮さんはご納得いただけない様子。心なしか、だんだんと彼女の視線が研ぎ澄まされているような気もするが、きっと気のせいだろう。そう言い聞かせるように軽くうなずきながら、視線を横へスライドさせた。


 時には現実を直視しないことも大切なのである。辛いことだけが人生じゃないって気づきを得られるだなんて、今日はステキな日だ。 


 ――――なんてのたまいつつも。このままだと、サイアクなめにあわされそうな予感がせすじをつたっているわけだが。おかしい、俺の学校生活はまごうことなく平和そのものだというのに。どこでルートを間違えた?


「……………………」

「あー、その、なんだ。闇雲に話すのもなんだし、幾つかテーマを決めるのはどうだ?」


 すり減ってしまったメンタルに耐えかねて、こちらから提案してみる。こういうときほど人生にポーズ画面という安寧を求めたくなるものだ。最近だと画面の外から攻撃されることも珍しくないため、その概念も揺らぎつつあるのだが。


「テーマ……つまり、先に話題を決めてしまおうってこと?」

「そうそう。いきなりプライベートの話をしろと言われても思いつかないし、お互いに共通の話題……例えば、学校行事の話なんてどうだ? このまえの体育祭とか、最近だと中間テストがあったばかりだろ。それに来週は球技大会もあるみたいだし、このあたりの話なら少しは広げられそうじゃないか?」

「そう、ね。 ……わかった。このままだと埒が明かずに昼休みが終わっちゃいそうだし」


 夜宮さんは少し黙考した後、頷いて承諾した。


「順番通りにいくなら、まずは体育祭ね。朝霧君は何か種目に出たりした?」

「開会式と閉会式には迷わず出場したな」

「それは種目でもなんでもないでしょ」


 ためらわずにそう言ってのけると夜宮さんから冷ややかな視線を向けられる。

 いや、どっちも立派な種目だと思いますよ? スケジュールにも乗っているし、生徒は全員参加してるわけだから、見方によっては最も重要な種目と呼べるのではないだろうか。うーん、我ながら無理がありすぎる言い分である。


「それ以外だと、開会式直後の徒競走だけだ。もちろん学年別の課題種目には参加したけど、どれもたいした思い入れはないかな」

「初めからそう言えばいいのに。徒競走に出場したってことは、足の速さに自信があるの?」

「残念ながら、運動部以外の枠で駆り出されただけなんだ。足の速さなんてせいぜいが平均並みだよ。そういう夜宮さんは何に出場したんだ?」

「棒引き。女子だけの種目で余ってたのがそこだけだったから、私も思い入れはないかな」


 さして興味もなさそうに言ってのけるあたり、夜宮さんは体育祭にあまり関心をもっていないようだ。そうなると、このあたりを深掘りしても得られる情報は少ないだろう。わかることといえば、少なくとも夜宮さんのクラスでの立ち位置は最底辺ではない、というくらいなものだ。


「じゃあお互い、それなりに体育祭は楽しめてたってわけか」

「今の流れでそういう考えになるなんて、頭の中がお花畑なの?」

「この時期ならネモフィラとか綺麗に咲いているだろうな。たんぽぽやチューリップなんかも良く映えると思う」

「……ほんと皮肉が通じないね、君は」

「前向きな姿勢だけが取り柄だからな」


 そう言いつつ得意気な顔をしてみせるものの、どの口がと言わんばかりに夜宮さんは一笑する。


「……前向きかどうかはいいとして。朝霧君、ガーデニングの趣味でもあるの? 花の名前、すんなり出てきてたけど」

「母が好きなんだよ。毎年何回かフラワーガーデンに行ったり、近場の穴場スポット巡りに付き合わされたりしていたからその影響だと思う。綺麗だとは思うけど、趣味かと聞かれるとちょっと違うかな」


 鑑賞するだけならともかく、自分の手で育もうとなると話は変わってくる。そこまでの熱意を持てない以上、趣味と呼べるほどのものではないだろう。


「そっか。もし趣味だったら園芸部にでも入ればと思ったけど、あてが外れたね」

「いまさらどこかの部活に入部する度胸なんてないよ。もとより帰宅部が性に合ってるしな」

「帰宅部、ね。 ……その割には、陰湿さが足りない気がするけど」

「帰宅部にどんなイメージを持ってるんだおまえは」


 日本全国の帰宅部を敵に回す発言に思わず頭を抱えたくなる。


 終了時刻を迎えて速やかに帰るその慎ましさはまさに清廉潔白、決して校舎に振り返らないその後ろ姿は陰湿どころか清々しささえ感じるものだというのに。 ……なんというか、大袈裟という意味ではお互いの言い分に大差などないような気がする。


「ていうか、そういう夜宮さんだって部活には入ってないだろ」

「まぁ、そうなんだけど。そこは、ほら。男子と女子と違いというか」

「ご都合主義もいいところだ。けど、そう言われると否定しきれないから困るんだよなぁ」


 ジェンダーレスの考え方も一つの在り方として生まれつつある昨今だが、そういった思想を常識として扱うのはなかなかに難しい。わからないものを理解しようとする姿勢は大切だが、得てして尊重されることはないからだ。


 常識というのは生活において不都合を生じさせないために存在するものであって、間違っても正しさを求めるような代物ではない。そうであるほうがより多くの人にとって都合がいい、それこそが常識というものの最大の利点といえる。


 困っている人を助けることは善行であるとか、物を盗むことは悪行であるとか、下校時間になった途端に誰とも口を利かず、早足で帰宅するような男子は友達のいない可哀想な奴だとか。 あとは……可愛い女子高生はもてはやされるのがあたりまえ、だとか。 


 ……皮肉なことに。常識は人間社会においては都合がいいものの、スケールを個人にまで落とし込んだときには不都合の象徴でしかない。極端な見方ではあるものの、多数の幸福が個々の絶望になるだなんて、そう珍しくもない話だ。


「まぁ、何事も都合がいいほうが得だからな。下手に逆境へ飛び込まなくてもいいだろ」

「いつも流されてばかりの君が言うなら、説得力がありそうだね」

「それ、褒められてる気が全くしないんだが?」

「だって褒めてないもの」


 ばっさりと切り捨てられてしまうものの、涙を堪えて穏やかな笑みを浮かべて見せる。ふふふ、ぬかしおるこやつめ。


「さて、じゃあ次はこのまえの中間テストか。ありきたりな質問だけど、自信のほどは?」


 流れを変えるべく別の話題を持ちかけると、夜宮さんは気まずそうに顔を背けてしまう。


「…………赤点は、取ってないと思う」

「なんだその微妙な回答。一周回って悲壮感増してないか?」


 いっそのこと、全然ダメでしたと割り切っている方がまだマシなのではないだろうか。個人の経験則だが、赤点回避を口にする生徒に苦手科目がなかった試しがない。

 掘り下げるほどに改善点が出てくるなんて、伸びしろばかりだと喜ぶのがポジティブシンキングというやつなのだろうか。そこまで達観するにはまだまだ精進が足りなさそうだ。


「うるさいな、そういう君はどうなの? 机に向き合っているところなんて想像つかないけど」

「そこそこ止まりじゃないか? 可もなく不可もなく、どの科目も8割ぐらいは取れてると思う」


 科目を問わず、全ての問題文の最後には配点が記載されていたため概ねそんなところだろう。自己採点をしたわけではないため大雑把な見方でしかないけれど。


 その返答を聞いた夜宮さんの顔色はサーっと冷たいものへと変わっていく。ハイライトの消えた双眸そうぼうは恨めしいという感情をありありと浮かべていた。


「……この裏切り者」

「そんな鬼気迫る勢いで言うなよ、普通に怖いから」


 どうしてこう、何気ない会話しかしていないはずなのに殺伐としてしまうのか。単純に会話の技術、コミュニケーション能力というやつが俺には足りていないのだろう。これまでまともな会話なんざしてこなかったツケが回ってきているだけなのだから、言い逃れはできないけれど。


「だいたい、誰のせいで集中できなくなったと思ってるんだか」

「誰のせいって……強いていうなら、集中できなかった自分のせいじゃないのか?」

「0点。朝霧君はふりだしに戻ってやり直し」

「いつから人生ゲーム始まったんだよ……」


 すっかり機嫌を損ねてしまったのか、夜宮さんはあからさまに顔を逸らしてしまった。


 どうやらこれ以上テストの話を振っても意味はなさそうだ。命令通り、ふりだしに戻って別の話題に切り替えることにする。


「まぁ、テストの話はここまでとして。最後は球技大会だけど、夜宮さんは出場するのか?」


 夜宮さんと同じ質問を今度はこちらからしてみると、彼女は少しの間をおいて首を横に振った。


「私は、参加しない。応援する気もないから教室で時間を潰すだけになると思う」

「退屈な一日になりそうなのが目に見えてるな」

「いいでしょ別に。君が気にするようなことじゃない」


 少し棘のある口調で夜宮さんは答える。


 もちろんその程度のことで不快になりはしない、駄々をこねられるのも嫌みを言われるのも我儘に付き合わされるのも、妹である涼音のおかげでどれもこれも経験済みだ。

 あいつが同じ態度を取ったのなら笑顔で臨戦態勢に入るだろう。なんならあいつのほうからノリノリでファイティングポーズを取る姿が目に浮かぶようだ。我ながら大丈夫か、この兄妹。


 くだらない妄想で気を紛らわせるのも程々にするとして。初めて話した時は思った以上に表情が顔に出ていて、可愛らしい一面もあるんだなと感心したが……今はため息をついてしまわないように堪える方が優先された。別段呆れているわけではなく、単に気持ちを切り替えているだけなのだが。


 くどいとは思うものの、これからの夜宮さんの行動を踏まえると今回のような目につくイベントの過ごし方ぐらいは覚えてもらった方が今後の都合もいいだろう。


「何もなければそうしたいところだけどな。 ……このまえカフェに立ち寄ったときに話したこと、覚えてるか?」


 気持ち声のトーンを落として問いかけると、こちらの意図に気付いたのか夜宮さんは崩していた姿勢を正した。


「カフェで話したこと……確か、外面を作るとかなんとか言ってたっけ? 詳しいところは覚えてないけど、そんな感じじゃなかった?」

「そうだ。簡単にいえば、校内での夜宮さんのイメージを変えようって話。そのためには第三者から評価……つまりはこの学校の生徒が夜宮さんに持つ印象にプラスの要素を多くしていくことになる」


 あのときは商品を例にしたため差額として取り扱ったが、要は他人から見たときの自分の肩書きである。夜宮霞を例にすれば “容顔秀麗ようがんしゅうれいを体現した美少女” といったところだ。


 一見プラスの要素に感じられるが、単体だと一長一短。メリットにしろデメリットにしろ、周囲に与える影響の振れ幅を激しくするピーキーな特徴である。大きなアトバンテージであることに違いはないが、現時点で彼女はそれを活かしきれていないどころか、リスクばかりを背負ってしまっているのだ。


 例えば、容姿ゆえに人目を引くということは、その分常日頃からその他大勢に注目されやすいということでもある。今回のようなイベントごとはその典型的なパターンだ。実際にそのシチュエーションを想像してもらうほうが早いだろう。


「――――では、ここで問題です。球技大会で盛り上がっている校舎をよそに、教室で一人携帯をいじっている生徒は、どういう風に見えるでしょうか?」

「どうって……そんなの何もないでしょ。暇そうにしてるなって、話題もないくせに声をかけてくる人がたまにいるくらい?」


 過去にそういう経験があるのか、鬱陶うっとうしそうに夜宮さんはため息をつく。


「……まぁ夜宮さんからすれば、そういう回答のほうが自然なのか」


 質問の意図をまるで理解していない……と言いたいところだが。夜宮さんの回答からして、外見の優劣から生まれる軋轢あつれきがどういうものか想像するのは難しいかもしれない。多少の手間はかかるが、順を追って説明した方がよさそうだ。

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