第13話 心からネコを信じなさい
この科学万能の21世紀になっても、地球から宗教が消滅する兆しは全くない。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教・・・・・・各々信仰の対象は違えど信徒は絶対神を崇拝し、善き生き方の指針を預けている。
いくら技術や文明が発達しても、なぜ人々は信心を持ち続けるのか? それはきっと、自分の『モノサシ』で決断するのが怖いからではないか。我欲や観念を捨てて教典に恭順すれば、本来生じるはずの苦痛や不安、恐怖から逃れられる。常に人より正しい神の命令に従えば、競争社会の喧騒においても心穏やかでいられる。
かつてないほど膨大な情報が氾濫し、無数の人々が異なる正義をぶつけ合う現代社会でこそ、人々は神の教えにすがるのではないか。
セン「――病気、貧困、飢餓・・・・・・これらの人を苦しめる問題に対して、お主はどう思う?」
健「・・・なくなった方がいい、クソったれなものだと思います」
セン「正直な返答じゃな。まぁ、長いことそれに悩まされてきたのだから、それを避けようとするのも当然か。お主の中にあるエゴは、肉体を守るために最も『利己的』な選択をする。病気にかかるのは悪い、お金がないのは悪い、飢えるのは悪いと即断即決して、徹底的に困難を避けようとするのじゃ」
健「はい、僕は短絡的に考えて、損得で物事を判断してきました。でも、人間なんだからそれは仕方ないんじゃないですか」
セン「そうじゃな。我欲には、その身を守る大切な役割がある。動物として生存を維持するためには、決して欠かせぬもの。じゃが、欲望や恐怖でずっと課題から逃げておっては、人生という迷路をグルグル回るだけ。決して出口には辿り着けぬのは、ここまで話を聞いてきたお主にはもうわかるじゃろ?」
健「ええ・・・今ならわかります。僕の視点ではなく、真我の視点。空の上から迷路を見下ろして、答えを見つけろってことですね?」
セン「うむ! 本当に成長したのお。お主の言う通り80億人が金銭的・物質的な豊かさを競い合う世において、我情をもって長期的な成功を成すのは容易なことではない。少ない席を他の参加者と奪い合い、迷宮の壁と激突するのがオチじゃろう」
健「うぐ、それは就職や投資に失敗して、痛いほど感じました」
セン「エゴは即物的な利益を目的とするが、エヴァはそうではない。お主が苦難に立ち向かい、隣人と和を結び、自分の物語を書き上げることを心から望んでおる。例え回り道になろうともお主が大望を掴めるのであれば、目先の小さな利益や損失など些細なことでしかない・・・」
健「それが先ほど述べていた『翼』、神様の視点ということですね。以前各家庭を訪問していたクリスチャンの方も、似たようなことを言っていた気がします。
宗教とか胡散臭いと思って全然真面目に話を聞かなかったけど、僕も彼らのように聖書を熟読して神の意思に従っていたら、もっとマシな人生を遅れていたんでしょうか? 今からでも低俗な欲求を捨てて敬虔な信徒になれば、この苦しみから逃れられますか?」
セン「・・・うーむ、少し言葉を間違えてしまったようじゃな。儂はエゴを捨てろと言ったのではない。神の下僕になれと言ったのでもない。儂の願いはただ一つ、お主が車輪の両輪を手に入れ、本当の意味で自立することじゃ――」
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