第6話 正直の頭にネコ宿る
健「えっと・・・『お金がないからください』みたいな要求を潜在意識に伝えるから、お金が不足した現実が返ってくるんですよね? だったらお金がないという認識を消して、初めから資産家になったつもりで行動すれば、正しく願いが伝わるんじゃないですか?」
セン「確かに書籍にはそうやって自分を洗脳しろと書かれておるが、そこに潜む矛盾に気付かんか?」
健「え、どこに矛盾があるんですか?」
セン「ケン、お主がテレビに出てくるような大富豪の真似事をするとして、その動機は何かのう?」
健「そりゃ、もちろん今度こそ貧乏から脱出するため・・・って、そうか!資産家の真似をする時点で僕は貧しいってことを肯定してしまっている―」
セン「今度こそ理解したようじゃな。『貧乏だから願う』も、『貧乏だけどバレないように金持ちの真似をする』も、根っこの部分は同じ。何を付け足したところで、お主が潜在意識に欠乏を届けていることに変わりはない。他人に嘘を付くことはできても、他ならぬ自分自身を騙すことはできないのじゃよ」
健「じゃあ、アファメーションを繰り返して、自己暗示をかけている人達は・・・」
セン「それは見事な引き寄せジプシーになっておるじゃろな。高すぎる理想を抱いた者は、理想の海で溺死する。身の丈に合わぬ散財を繰り返して、どうしようもないほど疲弊した後に、ふと我に返るのじゃろうて」
健「そうなんですか・・・止めてくれてありがとうございます。でも、それだと解決方法がなくないですか? 欠乏を埋めるのはダメで、欠乏を隠すのもダメで、思い込みや洗脳もダメ。永遠に出口のない迷路をさまよっている気がします」
セン「まさにその通りよ。エゴの迷路に明確な出口はない。どの方向へ歩いたところで、結局は壁にぶち当たる。たまに自身の才覚や幸運でポロっと抜け出るものがおるが、殆どの者は脱出に失敗し、ごく一部の成功例だけが世に出回ってお主のような引き寄せ難民を量産しておる。それには再現性がなく、誰もが新しい道を見つけたつもりになって壁に当たり、曲がってはスタート地点に戻り、グルグルと同じ場所を回っているのじゃよ」
健「そんなのって、あんまりじゃないですか! コンプレックスを克服するために自己啓発を始めたのに、終わりのないループに囚われているなんて・・・
何か、ここから脱出する方法はないんですか?」
セン「一応・・・方法はある。いや、これは方法と呼ぶべきではないのかもしれぬ。メソッドが迷路を脱出するための手段だと言うなら、これは迷路自体を無意味にしてしまうようなもの」
健「迷路を・・・無意味にする? ひょっとして、壁でも壊すんですか?」
セン「そうじゃな、そういう手もある。運動選手や発明家のように途方もない努力を積み重ねて壁を掘り進めてきた偉人は存在するが、お主のひ弱な肉体と根性で山のように高い壁を砕くのは至難の業じゃろう。
じゃから、儂はケンに『翼』を授けにきた。鳥のように大空から見下ろすことができれば、どんな壁がそびえ立っていようと障害にはならんじゃろ」
健「翼を使った、壁抜けですか?ちょっと意外ですね。堅物の猫神様はゲームみたいな裏技なんてけしからん、って怒るものかと思っていました」
セン「儂は神などではない。お主のネッコじゃ。正道も邪道もなく、お主が思うままに人生を謳歌することを願っておる。問題は、それが生じた次元では解決できぬ。お主がラットレースの勝者ではなく苦難からの解脱を望むのであれば、エゴの視点を超えて、より高い次元へ志を移すさねばならん―」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます