ボールペンと雫と

ぐらにゅー島

空は世界と繋がっていて

 雫が落ちた。

 その1ミリリットルにも満たない雫は、私のノートに落ちて紙の上に広がる。じわじわとその水分は紙に吸われ、書かれた文字はふやけてしまった。もう、読めない。視界が、水で覆われた。遅れて、呼吸が苦しい事に気がついた。呼吸がうまくできないまま、ノートには季節外れの雨が注いでいた。

 滲む。

 ノートも、文字も、私の心も。

 瞳から滴り落ちた雫は、ふやけた紙の上で小さな水溜りを作っていた。崩してしまおうと、私は手にしていたボールペンの先をそこに刺す。

 その瞬間、水溜りには、色がついた。青色の、マーブル模様。インクを垂らしたらそうなるなんて、自明の摂理なのに。それが私の心を酷くかき乱した。

 何色でもなかったノートと、雫は青く染まった。そして、きっとインクよりも雫の方が多かったのだろう。青色のマーブル模様は、快晴の空のような薄い青に、ほんのり色を変える。深い青色を、隠すかのように。

 なんとなく思った。「ああ、私は今悲しいんだ」と。

 次に思った。「いや、私は辛いのだ」と。

 この感情につける言葉はなんだろう。辞書を引いても、見つけられなかった。そして、私は見つけたくなかったのかもしれない。


 どんな雨も止む。止んでしまう。望んでいなくても、全てに終わりは来るのだろう。

 翌日、頬についた雫の走った足跡を指で擦りつつ、私はノートを見返した。

 濡れた紙は乾いていて、注視しなくてはわからないほど薄く、ほんのり青く跡が残っている。

 拝啓昨日の私、貴方は一体何に悩んでいたのですか?

 毎日同じ問いを繰り返す。昨日の私と、今日の私は異なるから。


 誰にも言えなくて。誰にもわからなくて。私にだってわからなくて。

 ただ意味もなく、意味ありげに、自分に嘘をついて雨を降らせる。


 窓の外はあの水溜まりのように青い、綺麗な空だった。きっと、この空も誰かの雫なんだろうと、ぼんやりと思った。

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