11月16日『地面からの景色』
11月16日『地面からの景色』
俺はたった今、コンクリートの上で目を覚ました。
温かかった筈の優しい雨は、冷たい雨に変わり、体に小さな針が刺さるように降り注ぐ。
雨はどこまで冷たく、体の体温を奪っていった。
赤黒い血液が地面を侵食していく……まるで軟体生物のように地面を這っていく……雨と俺の血液が混ざり合う……地面にぴたりと付いた皮膚に血液の温かさが伝わってくる……
曖昧に痛みが広がる……その痛みを覆うように、何度も俺にまとわりつくあの“感覚”に包まれた……既視感……前にも、こんな状況があったのかもしれない……いや、確かにあった。
俺は今、地面に倒れている……一体、何が起きたのだろうか……記憶を手繰り寄せてみた。
そうだ……ニヤを守ろうと団地の上から飛び降りたのだ……俺はニヤに触れられなかった。
ニヤの気配はもうしない……何処にいるのだろうか?
ニヤの言葉が思い出された……
“もうさよならだ……”
ニヤはもう消えてしまったのかもしれない……それとも、俺と1つに混ざり合ったのだろうか……
今は、夢なのだろうか……それとも、現実なのだろうか……
何処からか夢で、何処からが現実なのだろうか……
何処から狂い出した?もう……わからない。
俺は俺なのだろうか……
ニヤは消えた……俺の唯一の友達……俺は大人になり、また大切な友達を失ってしまった。
俺は残ってしまった……
ニヤは俺を助けようと、また目の前に現れたのだ……
曖昧な目覚め……
曖昧な日常……
曖昧な人間関係……
曖昧な感覚……
曖昧な自意識……
曖昧……曖昧……曖昧……曖昧……
夢か現実か……何処から狂い出したのか……そんな事はもうどうでも良いのかもしれない……
俺は、全て受け入れて生きていかないといけない……
ニヤは、俺を大切に思ってくれた……
ニヤをもう、悲しませないように……
曖昧な現実を受け入れ、強く生きていかないといけない……
“俺は俺なんだ……”
皮膚に感じる温かった血液は徐々に冷たくなっていく。
雨音にかき消された周囲の雑音も小さくなっていく。
意識が俺から離れようとしている……
それに反発するように曖昧だったはずの痛みが激痛へと変わっていく……
薄れていく意識の中、確かに生きている事を感じられた……
まるで夢から覚めたようだ……
終わりの来ない痛みの中、俺は静かに瞳を閉じた……
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