11月2日 夢日記『火事』

 11月2日 夢日記『火事』

 

 ……俺はどこかへ繋がる通路を歩いている。


 周囲は壁に囲まれ、とても低い天井……まるで洞窟のような、雰囲気の場所だ。


 壁と言っても石や土の壁では無い。赤と黒を基調とした綺麗なタイルでどこか小洒落た雰囲気の洞窟だ。


 それにしても薄暗い。それに蛍光灯がちかちかと切れかかっていて、とても不気味だ。

 俺はタイルを手で触りながら、一歩一歩先を進んでいた。

 景色は変わらずに、通路はどこまでも続いていく。不気味な雰囲気に不安が募る。

 

 不安に感じながらも奥に進んでいくと霧ののようなものが出てきた。

 霧はだんだんと深くなり俺を包み込む……ふと何か香りがする事に気がついた。

 何の香りだろうか……これは肉を焼くような美味しそうな香りだ。

 そうか……これは霧では無く煙だ。


 この通路の先は、何かの店で、そこから煙が漂ってくるのだろう……

 俺は肉を焼くような香りの中、更に奥まで進んでいく。


 視界の先に人影が見えてきた……煙の中、真っ黒なシルエットだけが遠くに映し出される。


 一歩一歩進んでいくと、立ち込める煙の中、そのシルエットがはっきりとしてきた。

 真っ黒なスーツに身を包み、仮面を被ったように無表情の男が、胸の前で銀のトレー持ち佇んでいた。


 店員の男だろうか?無表情の男は背筋がしっかりと伸び、どこかアンドロイドのような人間離れした雰囲気を醸し出している。

 煙はいつの間にか綺麗に消え去り、俺はその店員の男の前で立ち止まった。


「いらっしゃいませ……夢見様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 店員の男は深々と一礼すると俺の名を呼び、声を掛け、店の中へ案内してくれた。

 何故、俺の名前を知っているのだろう……あの男はこの店の従業員と言ったところか。


 俺は店員の男の背後を歩き、後をついて行く。しばらく歩いた先に扉が見えてきた。

 扉の看板には文字が書いてあるが日本語に似ている雰囲気だが読む事は出来なかった。

 店員の男は扉に手を掛けると更に薄暗い店の中へ入って行く。


「なぁ?この店、妙に暗いな……大丈夫か?」


 俺は店員の男に声を掛けた。男は突然立ち止まり、こっちを振り向くと無表情のまま一礼した。なんなんだこの店員は……


 それにしても不気味な場所だな……えらい所に来てしまったと不安に包まれる。

 店の中はいくつかのテーブル席が設けられており、テーブルの中央には備え付けられた肉を焼く網が設置されていた……此処は焼肉屋か?


「こちらへどうぞ」


 店員の男はテーブルの前に立ち止まり、手で座るように俺を誘導した。

 俺は言われるがままにテーブルに座って辺りを見渡した。

 網の中は炭が入っており、微かに火が付いている。

 調味料や箸等が綺麗に並べてあり、テーブルの真上に裸電球が寂しく光を放っていた。


 俺はテーブルに座り店員を待っていた。しばらくするとあの店員の男がトレーに料理を乗せてやってきた。


 トレーからテーブルに料理を乗せていく、皿の上には赤黒い不気味な肉の塊がピクピクと動きながら乗っていた。


「なんだよこれは?動いているじゃないか……」

 

 店員の男はそれに対し無表情で一礼し、次々と料理をテーブルの上に乗せて行く。


 緑がかったヘドロのゼリー……


 真っ赤な血のスープ……


 猿に似た動物の頭……


 虫を素揚げした盛り合わせ……


 グロテスクな料理の数々……


「何なんだこの料理は?こんなものとても食えないよ……」


 店員の男はそれに対しても、同じく無表情で一礼する。

 店員の男はトングを手に取ると勢いよくグロテスクな料理を火のついた網に乗せて行く。


 緑がかったヘドロのゼリーを、網の上に乗せると大きく火が上がった。


 真っ赤な血のスープを、乱雑に網の上に注ぐと火の勢いは更に強まる。


 猿に似た動物の頭を、ごろっと網の上に乗せると黒い煙が辺りに立ち込めた。


 虫の素揚げした盛り合わせを、最後に放り込むとばちばちと音を立て網の上で虫たちは踊っていた。


「ごゆっくり、お楽しみください……」


 店員の男は無表情のまま一礼し、その場を去っていく。


「おい、待ってくれ……これは料理なのか?火も強いし、煙もすごい……どうするんだよ?」


 俺の叫びは届く事はない。網の上の火は強さを増していき、火は裸電球を包み込み天井まで上がった。

 裸電球は火の熱さで割れ、隣のテーブルまで火は移り、店の中は煙で覆われた。すると、けたましく火災のベルが鳴り響き俺はパニックになる。


「おい、誰か……火を消してくれ……煙で何も見えないんだ……」


 俺の声は誰にも届く事はない。しばらくすると店内で放送が流れ出してくる。


“火事です。火事です。速やかに避難してください”


“火事です。火事です。速やかに避難してください”


“火事です。火事です。速やかに避難してください”


 店内の緊急を知らせる放送は、抑揚なく何度も繰り返し鳴り響き、俺を苛立たせる。


 俺は煙の中、店を出ようとテーブルを立つ。

 扉から出るとあの店員の男はトレーを持ちそこに立っていた。


「またお越し下さい……」


 店員の男はそう言うと、また一礼をした。ふざけているのか?何なんだこの店は……


 俺は怒りに震えたがそんな事は構っていられない。洞窟のような通路を煙をかき分けて歩き出した。

 しかし何処まで行っても出口は見つからない。

 煙に包まれ、遂には倒れ込んでしまった。


 意識が遠のいていく。意識が途切れると同時にその夢はそこで終わった……

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