11月2日『約束』

 11月2日 『約束』


 眠れないまま朝を迎え、身支度を整えて会社に車を走らせる。

 会社に着きいつもの喫煙所で同僚に夜中の出来事を話してみた。


「昨日に続いて災難だったな。でもそんな連続する事なんてあるのか?悪霊にでも憑かれているんじゃないのか?」


「辞めてくれよ。霊とかそんなオカルトめいた事は俺は信じないよ……くだらない」


「まぁ憑かれていると疲れているじゃ大違いだからな……はははははは」


 そう言うと同僚は、1人笑い出した。


「まったく笑えない駄洒落だな」


 俺は煙草の灰を灰皿に落とし、昨日の夢と現実の出来事を思い返していた。


 夢でコンビニに行ったのか?いや違うな……夢にはコンビニは出てきてない。

 黒猫が公衆電話の中に閉じ込められていて……それを助けたのは夢だったか現実だったか……あれは現実か……


「おい夢見……なぁ?」


「おい、聞こえないのか?」


 同僚の呼びかけに気が付かなかった。どうやら昨日の事を思い出すのに夢中になり過ぎたようだ。


「やっぱりお前、少しおかしいぞ?どことなく会話も噛み合ってない所もある」


「そうか?やっぱり最近なんだか変だな……現実と夢が曖昧になっている」


「それはまずいぞ?顔も少しやつれているように見える……最近しっかり食べているか?」


「心配かけてすまない。確かにこの所ろくなもん食ってないな。男の一人暮らしだ、仕方ない」


「まぁ今度、飯でも行こう……肉でも食ってアルコールで流せば少しは元気が出るだろ?息抜きも必要だ」


「あぁ、行こう。最近飲みにも行ってないしな……心配かけてすまない」


 同僚と会話をしていても、昨日の夢と真夜中の出来事が頭から離れない。

 何故か自然とその事ばかりを考えてしまっている。


「明日はちょうど祝日だ。明日はどうだ?どうせ暇だろ?」


「あぁ……俺ぐらい暇な奴は居ないさ。明日の夜な」


 休憩を終え作業に戻る、作業中も機械を操作しながらずっと夢の事を考えていた。


「真夜中に起きて……煙草がなかったんだよな」


「それからコンビニへ買い出しに出掛けて……」


「黒猫が俺の前に……違うなそれは夢の中の出来事だ」


「それから公衆電話が見えて中に黒猫が……」


「黒猫を逃したら真っ赤な車が……」


 やっぱり夢と現実が混ざり合ってしまっている。

 もう考えれば考えるほど糸が絡まるように混ざり合ってほどけなくなってしまっていた。


「夢見君……夢見君……ちょっといいかな?」


「はい……」


 俺は話しかけられ咄嗟に振り向いた。

 そこには会社の社長が俺の後ろに立っていた。 


「最近大丈夫か?いろいろあったみたいだしな」


「すみません……仕事には影響を出さないようにします」


「無理しないで大丈夫だ。それに機械に向かってぶつぶつと独り言を言ってたぞ?最近独り言が多くないか?私の声も聞こえてなかったようだが……」


「独り言……本当ですか?すみません気をつけます」


 どうやら仕事をしながらぶつぶつと、独り言を話していたようだ。


「あぁ……疲れているように見えるな。くれぐれも怪我には気をつけてくれ何か悩みがあればいつでも聞くからな」


「はい、気をつけます……ありがとうございます」


 考えていた事を無意識に口に出してしまっていたようだ……まずいな……日常生活に支障が出てしまっている。


 そう思った次の瞬間には夢の事を考え始めてしまっていた……夢の事を考えるのは心地が良いとさえ感じる。俺は癖になってしまったようだ。


 今夜はどんな夢を見るだろう……

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