第2話 放課後 〜暁少年の放課後〜

『一に殿あり、五に姫ありけり』


 その言葉が囁かれ出し、周りを騒がせるようになったのは、常盤市立虹ヶ丘ときわしりつにじがおか中学校に入学してすぐに行われた中間テストが終わったころからだった。


 皮膚を焦がすような猛烈な暑さとセミのけたたましい鳴き声が大迷惑な調和を始めた夏休み目前の七月にはすでに一年一組の教室はもちろん、その他のクラスでもその言葉を耳にしない日はないというくらい話題となっていて、あかつきの大きな悩みのタネの一つとなっていた。


殿との、本日はもうお帰りですか?』


 今日だって、問題なく掃除を終えて帰ろうとしたときに別のクラスの男子たちにそうからかわれてカチンときたところだった。


 冗談めかしに口角を上げた彼らを横目に、静かに瞳を閉じる。


 冷静沈着。


 それこそが暁にとっての日々のモットーであったからこそ、今日はその挑発にのらず、自分自身の怒りを鎮められたものの、もういい加減うんざりしていた。


 いつ怒りがピークに達してもおかしくない。


 そう、暁自身、目には見えない危機を感じていた。

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