第11話 階段:とぶ

余計なものがなければ、

人は空だって飛べるんだ。


暗殺と言うにはかわいらしい少女と踊って、

部屋の中をぐちゃぐちゃにして。

今度やってくる家政夫が、逃げないかどうかを考える。

男だったら耐えて見せろと言うのとも違う。

参ったなぁ。

ちょっと特技を伸ばしますって手段持ってたら、

あっちこっちから眼を付けられてかなわない。


まぁ、栗色の髪の彼女は、どこでもやっていけるはずだ。

ちょっと長い間だったから、未練はありありだけどね。

うちの息子の母親には、ちょっと若すぎる。


荒れた部屋を放置して、

窓から飛び降りる。

朱鷺色の和装が風にはためく。

「お師匠様ー!」

落ちた先で、弟子なんて取っていないけれど、

黄色いシャツの少年がニコニコ笑ってる。

その頭をひとなでして、

そういえばアラーム鳴らしたから、

今頃迷彩柄のあいつが来るだろうことを、

頭の端っこに流して、放置する。

とりあえず、息子を迎えに階段へいく。

いつも息子は、その階段を上ってくる。


階段を見下ろせば、

それはきらきらと輝いていた。

よくよく見れば、銀色の空き缶が反射しているのだと気がつく。

なんとも、芸術的だ。

息子は黒い学生服に仏頂面、

明らかにケンカをした顔をしていた。

「まーた拳で語ったか」

「いいんだ、拳は今日で終わりにする」

「ほう?」

「戦うのは拳だけじゃないさ」

息子はにっと笑った。

何か見つけたのだろう。

あるいは、この階段で見つけたのかもしれない。


階段の下でかわいい白いワンピースの暗殺者が、

名残惜しそうに栗色の髪の女性を見て走り去っていった。

赤い髪の青年が階段をおりて、

ロマンスグレーの紳士に何か言っている。

若草色のシャツのおばあさんは元気で、

青いジャンパースカートの女の子は、ぺこぺこと頭を下げて、

水色のネクタイの強面は、たしか、うちに来るはずの家政夫だ。


「それじゃ、そこの家政夫さんと、家の後片付け頼むよ」

「親父?」

「ちょっとでかけてくるよ」

旋風を巻き起こし、空へ。

皆がいる階段を、飛んでいく。


余計なものがなければ飛べる。

どうしてこのことに気がつかないんだろう。


そうか。

飛ばないから階段が面白いんだ。

だから、いろんな人に会えるんだ。


あなたに会える、ここで会える。

そこは最高の舞台。

階段で会える。

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階段物語 七海トモマル @nejisystem

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