第3話 階段:たちどまる

この赤い長髪が目立つんだよなぁ…。

俺はそんなことを考えながら、とりあえず立ち止まる。

みんな思い思いにこの階段をのぼったりおりたり。

行き先が決まっている人が、ほとんどなんだろう。

俺は、行き先っていったら、ゲーセンくらいしか思いつかない。


生まれついての赤い髪は、

黒く染めろって言われたり、

生意気だって言われたり。

あんまりいい気分はしなかった。

でも、この髪も俺の一部だし。

何よりゲーセンでは、この髪も特別じゃないから、

居心地いいって言えば、多分それなんだろうと思う。


学生の男の子が階段を上がっていく。

学生やれるだけ、幸せなのか、そうでもないのか。

その後ろから黄色いシャツの少年が駆け上がってきて、

俺の隣は、白いワンピースの少女が駆け下りてくる。

ワンピースの少女は、一瞬鬼のような顔をしていたけど、

俺の見間違いだといいけど。


階段の中ほど、振り返っているスーツの男に、

迷彩柄の人影がぶつかる。

普通は興味も示さない事柄。

そのさらに上のほうで、

青いジャンパースカートの女の子がつまづいた。

持っていた袋から、空き缶がぶちまけられる。

銀色の空き缶。

がらんがらんと派手な音をたてている。

女の子がそのまま落ちそうになっていて、気がかりだったけれど、

とにかく、俺に向けて空き缶が落っこちてくるものだから、

片手でガードするのが精一杯。


空き缶の一波が終わって、

やれやれと俺は腕を下ろす。

階段のあっちこっちに銀色の空き缶。

とりあえず拾ったほうがいいよなぁと思って、

手近な空き缶を拾う。

銀の空き缶にうつる俺の髪はやっぱり赤くて、

捨てられない俺をまた拾った気分になる。

まぁ、それもいいや。


「す、すみません!」

上のほうで女の子が何か言っている。

空き缶の女の子だろう。

とりあえず落っこちなくてよかった。

二つ目の空き缶を拾おうと、階段の下のほうに目をやると、

ゲーセンの常連のおじさんが、

女の人を引っ掛けているところらしかった。


お姉さん、そのロマンスグレーのおじさんは、

いろんな意味でゲームの達人だよ。

いろんな意味でやめといたほうがいい。

俺は、立ち止まるのをやめて、

忠告入れるべきか考える。

おじさんとは、どうせゲーセンで顔を合わせるんだけど。

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