第14話 ゴブリンの襲撃3

 シズフェ達はゴブリンを倒す。

 周囲にゴブリンの気配はない。

 隠れている者もいるかもしれないが、これ程仲間達がやられていたならば戦意を消失して逃げるだろう。

 もちろん一応警戒はしておくつもりであった。

 城壁の外は常に危険であり、常に警戒をしなければならないのだった。


「ケイナさん。ノヴィスさん。怪我をしていませんか? 治療しますよ」


 レイリアは最も前で戦っていたケイナとノヴィスに声をかける。

 レイリアは癒しの手ヒーリングハンドの魔法を授かっているので、怪我をした時は助かっている。

 癒しの手ヒーリングハンドの魔法は怪我を治す魔法である。

 深い傷を癒したり、四肢を再生させる事はできないが大抵の怪我は治せる。

 問題は直接怪我に触れなければならない事だ。

 戦闘中の仲間に触れる事はまずできないので、どうしても終わってから傷を治す事になる。


「へっ、大丈夫だぜ。これぐらいよう」


 ノヴィスは笑って言う。

 どうやら、少しは怪我をしたみたいだ。

 それを聞いてシズフェは眉を顰める。

 

「何を言っているのよ。一応見てもらいなさいよ。ゴブリンは毒を使う事もあるんだから」


 シズフェは大丈夫と言ったノヴィスを窘める。

 そもそも、力と戦いの神トールズの信徒は鎧を装備する事が禁止されている。

 また、獣の霊感の刺青を発動させるために上半身は裸である。

 肉体が強化されているとはいえ、シズフェとしては心配になる。


「そうだぜ、ノヴィス。シズフェを心配させるなよ」


 ケイナはそう言って笑う。


「ケイナさんもですよ。ゴブリンが毒を使っているのなら、かすり傷でも危ないのですから、一応見せて下さい」


 レイリアはそう言って2人の体を見る。

 

「マディも大丈夫? ゆっくり休んでね」


 シズフェは座り込んでいるマディアを見て言う。

 再び焚火が焚かれるまでマディアは照明の魔法を使い周囲を強く照らし続けた。

 あまり、得意な魔法ではなかったのでかなり疲れたようである。


「うん、そうする。しばらく横になるね。でも何かあったら起こしてね。まだやれるから」


 そう言ってマディアは馬車に入る。

 馬車には簡易の寝台があり、外で横になるよりも休めるだろう。


「ノーラさんは……。あれ? どうしたの?」


 シズフェはノーラに声をかけようとすると跪いて何かをしている。


「ああ、シズフェか? ちょっとゴブリンを調べていた」


 ノーラは死んだゴブリンを調べている。

 正直生きている時もそうだが、死んだ後はますます触りたくない。

 周囲にはゴブリンの死骸があるが、夜間は移動するのが大変なので、ここにいる。

 本当は移動したいのがシズフェの本心であった。


「あの……。何かわかったのですか?」


 シズフェが聞くとノーラは少し考え込むしぐさをする。


「そうだな、少しやつれている。おそらく、最近自身の住んでいた集落をなくしたのだろう。典型的なはぐれゴブリンだ」


 ノーラはそう言ってゴブリンを見る。

 ゴブリンは同じ種族同士で争う事が多い。

 深い森の中にはゴブリンの部族が多くあり、縄張り争いをする。

 当然勝った部族もいれば、負ける部族もいる。

 そして、負けた部族は悲惨である。

 雌ゴブリンはそのまま勝った部族に吸収されるが、雄ゴブリンは酷い扱いを受ける。

 奴隷にされるのはまだ良い方で、殺されて食料にされてしまう事もある。

 当然負けた部族の雄ゴブリンは逃げる。

 だが、逃げても行き場はない。

 そんなゴブリンははぐれゴブリンと呼ばれ、深い森の奥から出て来て、人間が住んでいるところへと出て来るのだ。

 ただ、そういったゴブリンは弱っているので大した脅威ではなく、すぐに退治されるだろう。

 

「結構強く感じたけど……。もっと、凶悪なゴブリンの部族がこの辺りにいるのかな?」


 シズフェは森の奥を見て言う。

 このゴブリン達に勝てたのは相手が油断していたからだとシズフェは思っている。

 気付いていないふりをして、相手が出て来るのを待ったのだ。

 シズフェ達が準備をしているとは思っていないゴブリン達は動揺して、その隙をついて勝ったのだ。


「それはわからないな。だが、油断はできない。それはいつもの事だな。さてそろそろ交代で休んだ方が良いな。シズフェ。君も無理はしない方が良いぞ」


 ノーラは笑って言う。

 エルフはほぼ全員が美人なのでその笑顔はとても素敵だ。

 シズフェも思わず笑い返す。


「そうですね。でも、もう少し起きてます。まだ、眠れそうにないですから」


 戦士である限り、常に死と隣り合わせだ。

 いや、戦士でなくても危険ばかりである。

 シズフェの故郷は魔物に滅ぼされた。

 その後自由戦士となった父は帰って来なかった。

 あの時の事は今でも覚えている。

 大切な人を待っているだけでは嫌だ。

 だからこそシズフェはこの道を選んだのである。

 夜の風が冷たく吹く。

 シズフェは女神のいるエリオス山の方角へそっと祈るのだった。 




 

 

 


 





 




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