第13話 ゴブリンの襲撃2

 シズフェは目を瞑る。

 森の影の中で敵意が渦巻いている。

 それをシズフェは感じ取る。


「来るよ……。みんな準備は良い?」


 シズフェは仲間たちに伝えた時だった。

 森の影から何かが飛んでくる。

 飛んできたのは石である。

 かなりの速度であり投石器を使っているのは推測できる。

 飛んできた石は焚火に命中する。

 火の粉が飛び散り、それを避けるためにシズフェ達は焚火の後から離れる。

 そして、シズフェ達が離れた瞬間だった。

 四方からゴブリンが向かって来る

 だが、それらは予測できた行動であった。

 ゴブリンは明りを狙い、動揺しているところを狙う。

 投石や弓矢のみでこちらを攻撃してくる事も考えられたが、ゴブリンはそうはしなかった。

 つまり、こちらを生け捕りにするつもりなのである。 

 だが、それはこちらの狙い通りである。

 

「マディ!」


 シズフェはマディを見る。

 マディは自身の持つ樫の杖を持ち、魔法語をつぶやいている。

 樫の杖には魔力を高める魔法文字ルーンが刻まれている。

 人間は本来なら魔力が弱く、魔法が使えない。

 しかし、そんな人間でも魔法を使う方法が2つある。

 1つは人間よりも遥かに魔力が高い神や精霊等から力を貰う事である。

 前者は神聖魔法と呼ばれ、後者は精霊魔法と呼ばれる。

 だが、これらは与えられた魔法しか使えないという制約がある。

 もう1つは魔術を使う事である。

 魔術は魔法を使いやすくする技術である。

 この魔術を使う事により、ある程度の魔力を持つ者なら魔法を使えるようになる。

 マディア達の魔術師は様々な魔術を編み出して魔法を使うのである。


「わかってる! シズちゃん! 月の欠片! 星の欠片! より集いて夜の闇を照らして! 照明イルミネートよ!!」


 発動準備が整ったマディアが照明の魔法を使う。 

 マディアの持つ杖の先が光輝きゴブリンを照らす。

 夜行性のゴブリンは強い光が苦手だ。

 暗くなったと思ったのが急に明るくなったので向かって来たゴブリンは目を押さえ足を止める。

 向かってきているのは5匹のゴブリン。

 そのゴブリンに向かってケイナとノヴィスが走り出す。


「はは! 行くぜ!!」


 ノヴィスが笑いながら大剣を振り上げてゴブリンに向かう。

 ノヴィスのむき出しの上半身の刺青が赤く光る。

 力と戦いの神トールズの信徒が持つ獣の霊感だ。

 魔力の高い魔獣の血を元にした染料を刺青として体に描く事で、強大な力を手に入れる事が出来る。

 獣の霊感を使う事により、かなり重たい鉄の大剣を片手で振るう事もできる。

 ノヴィスが大剣を横に振るうと3匹のゴブリンが吹き飛ぶ。

 向かって来たゴブリンはノヴィスだけで良いだろう。


「おっと、逃がさねえよ!」


 ケイナは逃げようとしたゴブリン呪術師に先回りする。

 その移動速度に呪術師のゴブリンは驚いているだろう。

 ケイナはとんでもない俊足なのである。

 戦場を縦横無尽に動き回り、相手を翻弄する。

 それがケイナの戦い方だ。

 呪術師は急いで呪文を唱えようとするが間に合わない。

 ケイナの放つ槍がその喉を貫く。

 これで普通なら勝負はあった言うべきだろう。

 だが、これで終わりではなかった。


「レイリアさん。マディを守ってて、お願い」


 シズフェは剣を構えるとゴブリンが向かって来た方向とは逆に顔を向ける。

 

「はい、シズフェさん」


 レイリアは頷く。

 彼らにも逆転の手はある。

 周囲を明るくするマディアを殺す事だ。

 闇の中ではゴブリンの方が圧倒的に有利なのである。

 しかし、シズフェはそんな事をさせない。


「さっきから! 敵意が丸出しなのよ! 女神アルレーナ様、貴方の忠実なる者の刃に祝福を与えたまえ! 鋭刃シャープブレイド!」


 シズフェはマディアに後ろから向かって来たゴブリンの頭を斬り裂く。

 気配を消し体を黒く塗り光が届かない馬車の影から迫って来ていたのだ。

 ゴブリンは頭が石のように固く普通の刃では弾かれるが、鋭刃の魔法で強化された剣ならば斬る事もできる。

 頭を斬られたゴブリンはそのまま倒れこむ。

 残りのゴブリンは2匹。

 倒れたのを含めて、感じ取れた敵意の数と一致している。

 2匹のゴブリンは分かれてシズフェを挟み撃ちにしようとする。

 手に持っているのは黒曜石の短剣だ。

 何らかの魔法を帯びているのかもしれない。

 普通のゴブリンなら仲間がやられた事で逃げ出すだろう。

 しかし、このゴブリン達に逃げる様子はない。

 また、挟み撃ちにしようとしている所からも、かなり手練れかもしれなかった。

 短剣を構えたゴブリンがシズフェに向かって来る。


(うっ! 結構速い! だけど!)


 ゴブリンの動きを見てシズフェは少しだけ焦る。

 思った以上に動きが速い。

 だけど、シズフェとて戦乙女だこれぐらいの事で負けるわけにはいかない。

 シズフェは片方から来るゴブリンの短剣を盾で受け流すと、もう片方のゴブリンの短剣を剣で跳ね上げて、首を突き刺し、体を回転させて引き抜くともう1匹のゴブリンを斬り裂く。

 その流麗な動きを見切る事ができず、同時に斬り裂かれ2匹のゴブリンは倒れる。

 これで隠れている者はいないはずだ。

  

「はあ……。上手くやれた……。残念ね。 奇襲は失敗よ。ノーラさん。残りの奴はいない?」


 シズフェは馬車の幌の上にいたノーラに聞く。


「何も気配は感じない。おそらくだが、もういないようだ……」


 ノーラは弓を降ろす。

 ノーラは弓を構えて仲間達を援護する予定であったが、その必要はないようであった。

 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る